悪化する緊急事態宣言解除後の雇用情勢
リーマンショック以上か
吉田啓志|2020年6月19日5:37PM
新型コロナウイルスの感染拡大は、多くの人から次々仕事を奪い、中でも立場の弱い非正規労働者を直撃している。政府も2段階で救済策を打ち出したものの、スピード感に欠ける。ドミノ倒しのように迫りくる雇用危機に、まるで対応が追いつかない。
東京都内の旅行代理店で派遣社員として働く30代のシングルマザーは、コロナ禍でツアーがなくなり、5月に雇用を打ち切られた。20万円を超えていた月収は今後ゼロになる。正社員はクビにならず、しわ寄せは派遣にくる。4月から始まったはずの「同一労働同一賃金」はどこへやら。政府の緊急事態宣言は解除されたが、次の仕事のメドは立っておらず、4歳の子どもを抱えて途方に暮れている。「初めて自分の足場がもろかったことに気づいた」と話す。
厚生労働省によると、5月28日時点でコロナ禍による解雇・雇い止めとなった人は1万6723人。東京都などに緊急事態宣言が発令された4月7日時点は1677人で、まさに「日を追うごとに増加している」(加藤勝信厚労相)。連合総合生活開発研究所による労働者4307人を対象とした4月1日~3日時点の調査ですら、契約社員の10・6%が「雇い止めにあった」と回答している。国内の派遣社員は約144万人。厚労省の調査では2008年のリーマン・ショックで08年10月~09年6月までに約22万人の非正規労働者が失職したが、今回はこの規模を上回る恐れも指摘されている。
こうした事態に、政府は4月末の1次補正予算に続き5月27日には2次補正予算案を編成。雇用を維持した企業に支給する雇用調整助成金(雇調金)を拡充し、日額上限も8330円から特例で1万5000円に引き上げた。また大幅に収入が減った事業者には、月100万円(法人の場合。個人事業者は50万円)を上限に家賃の一部を支給する。
【助成金、雇調金めぐる混乱】
「煩雑すぎて、いつになったら受給できるのか……」
横浜市で料理店を経営する男性(52歳)はため息をつく。従業員25人全員を休業とし、助成金を申請することにした。しかし、申請書類は10種類。出勤簿や給与明細などもそろえねばならない。4月は一部休業としたため、一人ひとり給与と休業手当がいくらになるか計算する必要もある。月々約250万円の家賃負担もあり、焦るばかりだ。
簡素化の要望を受け、政府は助成金の申請に必要な記載事項を73から38に減らし、担当職員も増員した。それでも従業員への休業手当はいったん事業者が払い、後に補填を受ける仕組みだ。助成金を得るまで手当を払い続けられる中小事業所はそう多くない。20日から始めた助成金のオンライン申請は、不具合から即停止された。
雇調金の申請相談は40万件近くに達している。それが5月27日時点で申請にこぎ着けたのは5万7750件で、支給に結びついたのは2万9414件にとどまる。政府は「事業者が休業手当を払わない」との悲鳴を受け、労働者が月33万円を上限に国から直接給付を受けられる制度も創設したが、1次補正による対策同様、トラブルによる支給遅れもあり得る。2次補正予算の執行は早くとも6月半ばとなりそうで、きょう、あすの売上がない零細業者からは「間に合わない」との悲鳴が漏れる。
派遣社員を巡っては「5月危機」が囁かれている。派遣の契約は、4月から3カ月ごとに更新されることが多い。更新を続けて長く働いてきた人を雇い止めする場合、派遣会社は「30日前」までに本人に通告せねばならない。6月末で契約期限が切れる人を対象に、5月末に雇い止めの通告をするケースが増えているようだ。
新型コロナの影響は、労組にも及ぶ。使用者側との交渉は密閉、密集、密接の「3密」になりがちであるうえ、使用者側も在宅勤務中の担当者を出勤させる必要があるためだ。ネットを通じたオンライン交渉も行なわれているものの、連合幹部は「画面ごしのやりとりでは、切迫感が伝わりにくい面もあるようだ」と嘆く。
(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、2020年6月5日号)