クルド人男性への暴力に抗議
渋谷で約200人デモ
樫田秀樹|2020年6月25日12:06PM
5月22日。数十人の歩行者が見つめる中、トルコ国籍のクルド人男性のチェリク・ラマザン氏(33歳。在日15年)は2人の警察官に制圧され全治1カ月の頸椎ねん挫を負った。
翌23日、その様子をラマザン氏の友人や歩行者が撮影した複数の映像がSNSに流れると瞬く間に炎上し、筆者のツイッターでも150万人以上の視聴を記録した。
映像では、1人の警官がラマザン氏の体を抑え「座れ!」と命令。ラマザン氏が「何もしてない。話聞いて」と訴えると、もう1人の警官が「座れ!」 とラマザン氏の足を蹴り、跪かせ、体を抑え、「おい。いい加減にしろ、この野郎!なめんなよ!」と恫喝した。
そして、撮影する友人に警官が近づいたところで映像は終わる。
こうなった経緯をラマザン氏は以下のように説明した。
22日15時半頃、東京都渋谷区の路上で車を運転中、隣レーンのパトカーの警官と目が合い「お疲れ様です」と挨拶をした。すると、パトカーがラマザン氏の車を停め、「車内を確認したい」と要請。ラマザン氏は「歯科医院に急ぐから」と断り運転に戻った。するとパトカーはサイレンを鳴らし停車を命じた。ラマザン氏は車を停め、警官の元に近づき「なぜついてくるんですか?」と尋ねると、「なぜ逃げた」と手を掴まれ、あとは映像通りの制圧が始まった。
この映像は一度は警察に消去されている。警官は撮影をしたラマザン氏の友人からスマホを取り上げ映像を消去した。証拠隠滅はやってはいけないことだ。だが映像はスマホ本体に加えクラウド保存してあったので復元できたのだ。
その間、車の中は徹底的に調べられたが怪しいものは出てこず、そこでやっと解放となる。ラマザン氏は今も憤りを隠さない。
「謝罪もなく警察は去った。首を押えられ怪我したのにですよ」
【同時期の米国の事件も想起】
一方、警察の説明は違う。有田芳生参議院議員(立憲民主党)がツイッターで発信した警察庁への聴取によると、同庁は「車が急速度でパトカーを追い越し、ウインカーを出さず車線変更した。停車させ、運転免許証の提示を求めたら急発進した。再び車を停め再度免許証の提示を求めたが提示を拒み、車を降りるなり逃亡を図ったので身柄を確保した。免許証不携帯だったので、指導警告して解放した」と説明している。
両者の説明から、ラマザン氏が最初の職務質問に応じなかったのは事実だ。だがその後の行動の説明が両者はまったく違う。不可思議なのは、道路交通法違反を疑いながら反則切符を切っていない事実だ。違反はあったのか? 筆者は事件を管轄する渋谷署に「パトカーのドライブレコーダーに道交法違反や急発進の映像はあるか」と尋ねたが、回答は「調査中です」とすっきりしないものだった。
もっとも本件の本質は、道交法違反の有無よりも、職務質問における威圧行為にある。
5月30日。この威圧行為を批判するデモが呼びかけられると約200人が渋谷駅に集まった。動機を尋ねると「映像に黙っていられなくなった」という一般市民が多く、「事件3日後の5月25日、アメリカで白人警官が黒人男性を制圧し死亡させた。今回も相手がクルド人じゃなく日本人だったら制圧はなかったはず」と、問題を人種差別と捉える人も多かった。
事件後に、筆者はクルド人を夫にもつ日本人女性から「夫が先日コンビニに入っただけで職質を受けた。夫は同時に入店した白人客を指さし『彼には訊かないのか』と尋ねると警官は『まあまあ』と言うだけ。こんな職質、もう10回以上です。中東の男性は危ない存在なのですか」との連絡を受けた。またネットでは、外見が違うだけの理由で警察から理由なき職務質問を受けたアジア系、アフリカ系の日本人の報告も散見される。
ラマザン氏は5月27日、「特別公務員暴行陵虐致傷罪」で威圧行為を行なった警察官2人を刑事告訴した。そこには「理由なき職務質問に苦しむ外国人のために闘いたい」との思いが込められている。
(樫田秀樹・ジャーナリスト、2020年6月12日号)