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横田滋さんを悼む
めぐみさんへの思い、かなわず
粟野仁雄|2020年6月25日12:35PM
「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」の横田滋初代会長が6月5日、老衰のため87歳で逝去した。
日本銀行職員として新潟赴任時代の1977年11月15日、前日が誕生日の滋さんに「おしゃれに気を使ってね」と櫛を贈ってくれた長女めぐみさん(当時13歳)は中学からの下校中、忽然と消えた。手がかりはなかったが1990年代、共産党関係者や『産経新聞』記者などの調査で北朝鮮による拉致が確実となる。しかし家族は「めぐみちゃんが殺される」と恐れ、実名公表に反対した。「匿名では意味がない」と勇気を出して実名公表を決めたのは滋さんだった。
2002年9月の小泉純一郎首相(当時)訪朝ではめぐみさんが「精神的な病気になり死亡した」と伝えられ涙に暮れた。めぐみさんの娘ウンギョンさんは「会いに来て」と訴えたが「北朝鮮に解決したことにされてしまう」との反対で断念。14年にモンゴルで会い「孫もめぐみに似てる」と喜んだ。
筆者は川崎市内にある横田さんのマンションで二度ほど長時間インタビューし、滋さんから丁寧なお手紙をいただいたこともある。二度目(15年3月)は前日に酔って転び頭を打ったとかで「好きなお酒、止めてるんですよ」と心配する妻・早紀江さんが語る思い出話や政府への期待を穏やかな表情で聞いていた。だが、ひとたび話し出すと愛娘への思いが堰を切り話が止まらなかった。
欧州で拉致された有本恵子さんの母・嘉代子さんが今年2月に逝去。政府認定の未帰還拉致被害者の親で存命者は父・明弘さんと横田早紀江さんだけになった。有本さんは「拉致被害者のため北海道から沖縄まで飛び回ってくれた。一番感謝しとる」と悼んだ。安倍晋三首相は「私の政権で拉致問題を解決します」と公言するなど、この問題で名をあげ出世した。横田滋さんの逝去に「断腸の思い」などと会見したが対応は「米国任せ」で北朝鮮に行こうともしない。
(粟野仁雄・ジャーナリスト、2020年6月12日号)