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新型コロナ、鈴木医務技監はなにをしているのか
西川伸一|2020年6月27日2:58PM
医系技官はキャリア組と同じ扱いを受ける。しかし、昇進は局長までで事務次官には到達できなかった。ついに前述のとおり、17年に次官級ポストとして医務技監が誕生したのである。
鈴木氏がそのポストを射止められたのは、彼が医学部卒業後医師にならず、すぐに入省して行政の出世コースを進んだからだ。従って、感染症対策の経験はない。医師から医系技官に転じる者もいる。ただ、彼らは少数派で中途から出世競争には加われない。現場経験のない者が医療行政のトップとして君臨するのは、裁判しない裁判官が司法行政を取り仕切る裁判所と似ている。
宮本氏は『お役所の精神分析』(講談社)で、こうした逆説を示唆する次の「有名な話」を紹介している。〈厚生省内でだれかが倒れた。その場に居合わせた医系技官があわてて叫んだ。「おい、だれか医者を呼べ」〉。
首相を本部長とする「新型コロナウイルス感染症対策本部」が、20年1月30日に設置された。その日以降の『朝日新聞』「首相動静」欄を見ていくと、2月2日、2月6日、4月19日の3日を除いて鈴木氏は安倍晋三首相と毎日面会している。首相を懸命に支えているようだ。とはいえ、それ以上の具体的な仕事ぶりは外からはわからない。
対策本部の会合はこれまで36回開催されている。うち第16回(3月1日開催)までの議事概要が公開されている。そこに記される出席者名に鈴木氏は1回も出てこない。医務技監の設置目的からみて出席すべきではないのか。国会答弁も皆無である。元医系技官の木村もりよ氏は「本来であれば、医務技監が現場責任者として登場し、メディアなどを通じて徹底的な情報発信を行うべきです」と指摘する(20年4月12日付「論座」)。
医務技監就任直後に鈴木氏は抱負をこう語っている。「飛行機で感染者が国内に入る可能性もあり、国際的な感染症対策の専門家を育てる必要がある」(17年7月16日付『毎日新聞』)。この「公約」は達成されず、国民が高すぎるツケを払わされている。
(西川伸一・明治大学教授。2020年6月5日号)