困窮者へのホテル提供打ち切りで吉住新宿区長、異例の謝罪
植松青児|2020年7月13日11:29AM
【破綻した区側の説明】
8日に抗議文を受け取った同区の関原陽子福祉部長は「説明が足りない部分があった」と陳謝し、「都の延長決定はあくまで『本当に困っている人には期間延長』という趣旨だと理解した」と、区の対応は都の延長通知と整合していると回答。続けて片岡丈人生活福祉課長も「これまで相談にこなかった人にはいちど6月1日でチェックアウトしてもらい、そのうえで困っている人は区に相談にきてもらう」意図だったと、動機の正当性を主張した。
しかしこの説明はすぐに綻びを見せる。「緊急アクション」側は事前に都の担当者と連絡を取り、経緯を把握していた。追及された片岡課長は都との協議で「全員提供継続が望ましい」と要望されていたことを認めた。要は他の22区や市が都の要望に沿って対応し、新宿区だけが都の要望とは相容れない対応を取ったのである。
さらに、利用者に「都の提供延長の方針」を伝えなかったこと、チェックアウト後に相談に訪れ提供延長を要望した利用者に対し区の窓口担当者が「新宿区のホテル提供は6月1日まで」と言い張った事実についても追及された。
実際には区は「困っていて相談にきた利用者」に対してもホテル提供を打ち切ったことになる。
吉住区長は「寄り添った対応」ができなかったと陳謝したが、この表現は曖昧にすぎる。そもそも「本当に困っている人を支援する」と「区に相談にきていない人にはチェックアウトしてもらう」の間には論理的な飛躍がある。区は「相談にこない人=『本当に困っている人』ではない」と見なして強制チェックアウトの対象にしたが、本来なら「区に相談にこない人」は「困っているか否かわからない」グレーゾーンの存在のはずだ(ゆえに新宿区以外の市区は提供継続対象とした)。「本当に困っている人」でも生活保護への心理的な抵抗、コロナ感染リスクのある無料低額宿泊所に収容されることへの不安など相談をためらう正当な動機はいくらでも考えられるのだ。
「緊急アクション」の稲葉剛さんによると、支援を求めている人が行政の窓口へ相談に行っても、恣意的に選別をされるという事例はコロナ危機以前から各地で存在してきた。他の自治体でも「グレーゾーンは支援対象としない」との名目による乱暴な制度運用の事例が指摘されている。制度運用における原則や優先順位が大きく歪んでいる状況下、不適切な行政の制度運用に対する「異議申し立て」が重要であることを、今回の事例は示している。
(植松青児・編集部、2020年6月19日号)