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海自輸送艦「おおすみ」衝突事故、国の主張揺るがす証拠発覚
三宅勝久|2020年7月21日11:34AM
【衝突約1分前「怖いよな」】
ほかにも興味深いやりとりがある。たとえば衝突約1分前のものだ。
〈もう前を行けると思ってるんだろな、怖いよな〉(※)
〈向こうは怖くないんかな〉
〈怖くないんでしょうね〉
〈いつでもよけれると…〉
従来明らかにされていたのは最初(※)の発言だけだった。不自然だとの指摘があった。
国によれば、まだ「とびうお」の右転はなく危険のない時点での発言だ。追い越しも「していない」。それなのに「もう前を行けると思ってるんだろな、怖いよな」とは文脈がつながらない。
《このままの状態であっても「とびうお」が「おおすみ」の前方を通過することができるものの、「とびうお」が周囲の状況を顧みずに航行しているようにも感じられたことから、その行動を「怖い」と表現したものであり、衝突の危険が差し迫っていることを表現したものではない》(国の答弁書より)
苦しい釈明だが、後に続くやりとりがわかったため違和感は解消した。「とびうお」が自分からよけると過信したまま接近を続けた。だがよけない。だから「怖い」という言葉になって出たのだろう。
午前7時55分ごろから事故の起きる同8時まで「おおすみ」はレーダー画面から「とびうお」を見失っている。目視頼みの航行。見張り員に「こちらを視認しているか」と指示し、視認しているとの回答を得た。しかし汽笛を鳴らして確かめたわけではない。
衝突直後、乗員が「視認」に不安を覚える様子も記録されている。
〈こっち見とったんやないかな〉
〈むこう見とったです〉
〈見とったでしょ〉
主要な事故責任が「おおすみ」にあることは決定的ではないか。無謀な追い越しをかけて異常接近、衝突した疑いは限りなく濃い。
事故翌日の14年1月16日、『読売新聞』朝刊は、輸送艦の左後ろから釣り船が近づいたとする政府高官の話を報じた。『中国新聞』も同年2月14日朝刊で「釣り舟、左後方から衝突か/航跡ほぼ特定」と断定的に報じた。いずれも事実は逆で完全な誤報だ。情報操作が疑われる。7月7日から広島地裁で証人尋問がはじまった。事件の闇は照らされるのか。
(三宅勝久・ジャーナリスト、2020年7月10日号)