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緊急避妊薬は「緊急」の薬なのに入手しにくい
現状改善求める署名6万7000筆を提出
宮本有紀|2020年8月7日1:35PM
避妊の失敗や性暴力などによる望まない妊娠を防ぎ、女性の健康を守るために緊急避妊薬を安全に入手できる社会をめざす「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト」は7月21日、厚生労働省で加藤勝信厚労相あての要望書と署名約6万7000筆を自見英子同大臣政務官に提出した。
厚労相への要望は25の市民活動団体からで、①緊急避妊薬が適切かつ安全に使用される環境づくりを推進すること、②緊急避妊薬の対面診療およびオンライン診療の提供体制を整備・強化・周知すること、③緊急避妊薬のスイッチOTC化(注)に関する審議を早急に開催し市民の声を反映すること、④緊急避妊薬を薬局で薬剤師の関与のもと処方箋の必要なく入手できるようにすること、の4点。
提出後、市民プロジェクト共同代表の染矢明日香氏(NPO法人ピルコン代表)と遠見才希子氏(産婦人科医)らが会見し、「新型コロナウイルス感染症対策に伴う外出自粛の影響で、女性や子どもに対する暴力が世界的に急増。日本では特に、若年層で意図しない妊娠に関する相談が増えている」(染矢氏)という現状から早急な対応を求めて要望書を提出した背景を説明。染矢氏は「要望書は前向きに受け取ってもらえたが、緊急避妊薬を薬局で入手できるのはいつかという具体的な目標や期限の設定の約束はなかった。正直、いつまで待てばいいのかという思いもある」と述べ、緊急避妊薬が入手しやすい環境整備が進まないもどかしさを吐露した。
遠見氏によれば、緊急避妊薬は妊娠阻止率は100%ではないが早く飲むほど効果があり、24時間以内の服用なら阻止率は95%。72時間経過すると58%になるという。しかし日本では性行為後に薬局に駆け込み緊急避妊薬を購入し急ぎ服用する、というわけにいかない。購入には医師の診察や処方箋が必要だが、性暴力に遭ったことや家庭の事情を医師に知られたくなくて受診をためらう人もいる。また、薬の価格は6000円から2万円と高価で、特に学生など若者には負担が大きい。「心理的、物理的、医療的なハードルがある」(遠見氏)のが現状だ。
日本で2011年に販売開始された緊急避妊専用薬は重大な副作用などがなく医学的管理下に置く必要はないとされており、OTC化も可能なはず。しかし要望書の③にある緊急避妊薬のスイッチOTC化は、17年に厚労省の「第2回医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」で否決されている。理由は「OTC化されると100%妊娠を阻止できると誤解される」「性教育が遅れている」などだ。また、19年に行なわれた「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」でも緊急避妊薬についての議論で「若い女性は知識がない」「高度な内分泌の知識を持った人間にしか判断できない」「悪用するかもしれない」などの発言がなされている。
この検討会を傍聴し「性被害者だけに絞ってはどうかという発言もあって心が痛んだ」という遠見氏は「薬が必要になる背景はさまざま。性暴力被害の方もいればパートナーとの性交渉で避妊に失敗した人もいる。理由で判断するのではなく、どんな人でも健康を守るため世界標準の方法と価格で緊急避妊薬にアクセスできる権利がある。そういう視点を医療者が持つべきで、世論もそうなってほしい」と話した。
昨年からオンライン診療は解禁されているが、地理的・心理的に対面診療が困難と医師が判断した場合に限られる。また、医師は院内処方で処方箋を患者宅へ自宅郵送し、患者が処方箋を薬局へ持参し薬剤師の前で面前内服する、などの条件があるうえ、カード決済が多いため依然として受診のハードルは高い。市民プロジェクトでは、対面診療、オンライン診療、薬局での薬の入手と選択肢を広げ、状況によって選べる体制の構築を求めている。
なお、2018年10月から始めた署名キャンペーンは、今回の提出後も続けられており、8月4日現在で8万6000筆超。市民プロジェクトの詳細はhttps://kinkyuhinin.jp/で。
(注)医療用医薬品として用いられた成分がOTC医薬品に転換(スイッチ)されること。OTC医薬品とは、医師による処方箋がなくても購入できる医薬品のこと。解熱鎮痛剤や胃腸薬、アレルギー薬など幅広い種類の薬が該当する。
(宮本有紀・編集部、2020年8月7日号掲載)