若者にはなぜ“経営者マインド”が搭載されているのか
雨宮処凛|2020年8月17日8:36AM
経営者マインドになれば、強者になった気分になれる。成功者や権力者など、強い者と一体化した気分も味わえる。そのような貧困層の若者は、SNSなどで決して私や藤田孝典氏(貧困問題に取り組み、『下流老人』などの著書がある)をフォローしない。彼らが好きなのは、堀江貴文氏であり、ゾゾタウン(ZOZOTOWN)前社長の前澤友作氏などである。
そんなことを書いたのは、今年のはじめ、そんなマインドの「若者」の言い分を多く聞く機会があったからだ。それは相模原の障害者施設で19人を殺害した植松聖の裁判。法廷で、植松は「日本は借金だらけ」と強調し、「障害者はお金と時間を奪っている」と事件を正当化し続けた。
財政難を看過できないと憂い、なんとかしなければと焦る気持ちはわかるにはわかる。一方で、なぜ、総理大臣でも官僚でもないのに、これほど財源問題にこだわり、苦悩するのかという疑問が湧く。福祉職の彼は、そもそも財政問題など考えなくてもいいのだ。
1975年生まれの私には搭載されていない「経営者マインド」は、90年生まれの彼には自然に搭載されている。植松聖は、奥田知志氏が言うように「時代の子」だ。今月、そんな植松の裁判について書いた『相模原事件・裁判傍聴記 「役に立ちたい」と「障害者ヘイト」のあいだ』を出版した。ぜひ、手にとってほしい。
(雨宮処凛・『週刊金曜日』編集委員。2020年7月17・24日合併号)