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聖火なき道に香る政治の思惑
福島県原発被災地を歩く
あいはらひろこ|2020年8月18日4:02PM
東京五輪開幕予定日だった7月24日、福島県の原発被災地・浜通りの各市町村は静かな連休を迎えた。予定されていた聖火リレーは双葉町を除く被災地各市町村で、約600メートルから約5キロの短距離を細切れで走るコース。現地を歩くと、安倍晋三首相のレガシー作りに利用される被災地の姿が見えてくる。
全国47都道府県を121日間、予定通りならこの日の開幕式まで続くはずだった聖火リレー。そのグランド・スタート(3月26日)が予定されていたのが、楢葉町にあるサッカーナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」だ。プルサーマル(ウランとプルトニウムの混合燃料)計画推進や原子力部門の事故隠しで批判の高まっていた東京電力が1995年に建設を始め、97年の完成後に地域振興事業として福島県に寄付した施設で、原発マネーが建設費の源泉だ。2011年3月の原発事故後は作業員のスクリーニング場やプレハブ宿舎、資材置き場、事故対策や廃炉作業の拠点となった。住民には「アメとムチ」の苦い思いが走る。
東京五輪延期決定後の4月2日から7日までは、ここで聖火を展示公開していた。休日のこの日はピッチに多くの子どもたちや家族連れの姿があったが、この区間の聖火リレーのゴールとされていたJヴィレッジ駅までの道に人や車の姿はなく、五輪開催を象徴するような幟もないのが意外だった。
印象的だったのは福島第一原発のある大熊町。ここは復興事業に携わるゼネコン事業所近くの常磐道高架下をスタート地点に大川原地区復興拠点地区を抜け、復興住宅を左手に見ながら約1キロ。車ならわずか1分のコースだった。19年4月14日、安倍首相がJヴィレッジ視察後に駆け付けた先がこの大熊町役場新庁舎開庁式。当日は筆者も現地で取材していたが、「復興よりも議員が大事」という趣旨の問題発言で桜田義孝東京五輪・パラリンピック担当大臣を更迭した直後、被災地に寄り添う姿を装いつつ、実は批判の火消しと復興五輪アピールに躍起だった安倍首相の姿を忘れはしない。
野球とソフトボールの競技会場とされた福島市の福島駅に多数の看板と幟があったのと対照的に、ここには五輪開催を伝えるものが何もない。沿道も役場前も閑散としており、どこからか重機の音が聞こえるものの生活の音も人の気配もなく、まるで「忘れられた被災地」だ。新しいまっすぐな道路、ピカピカの役所や住宅が広がり、五輪もCOVID―19さえも遠くの世界。山あいに完成した小さな人工都市自体が異次元の世界だ。