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聖火なき道に香る政治の思惑
福島県原発被災地を歩く
あいはらひろこ|2020年8月18日4:02PM
【「延期」で隠蔽されたもの】
衝撃だったのは浪江町ルート。南相馬市と浪江町にまたがる福島ロボットテストフィールドをスタート地点に、町内の福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)まで約600メートルのコースだが、地元の人も「聞いたことないね」。FH2Rは「次世代エネルギー」(資源エネルギー庁)の水素製造拠点で、この浪江産水素が「五輪史上初」と謳われつつ聖火台や聖火トーチへと利用される。ちなみに昨年3月のFH2R開所セレモニーにはこれまた安倍首相が来て、しっかりPRしている。
富岡町ルートは駅舎が新築された富岡駅前から。この日の同駅はホームに2人、待合室に3人、正面のベンチに1人、客待ちタクシーは1台。震災後に住民が戻らない町の様相だ。ゴールの富岡第一中学校まで約1・3キロ。隣の富岡第一小学校の体育館の壁が轟音とともに取り壊し中で、内部の天井や壁が見える。「11月頃には撤去工事完了」と町教委は言うが、聖火リレーが来年このコースで行なわれたとしても、壊された校舎の存在など誰も知りもしない。
五輪が中止でなく延期になったのは目障りな震災の跡を消し去りたい者たちに好都合かもしれない。明確に中止にすれば住民議論の上で救出され得る遺構もあるに違いないのに。原発事故被災地ではさまざまなものが破壊される一方、違和感のある何かが侵略的に築かれようとしているのだ。
(あいはらひろこ・ジャーナリスト、2020年7月31日号)