『読売』を元販売店主が提訴
「押し紙」めぐる司法判断に変化か
黒薮哲哉|2020年9月11日12:20PM
【佐賀新聞社「押し紙」判決で一気に形勢逆転か】
今回の裁判で江上弁護士らが主張すると見られる「押し紙」の定義は、独占禁止法に基づく新聞特殊指定(新聞業における特定の不公正な取引方法)で謳われている定義を忠実に解釈し、実配数(実際に新聞販売店が配達している部数)に適正予備紙を加えた部数を販売店にとっての必要部数と位置づけ、それを超える供給部数は理由のいかんを問わず、すべて「押し紙」としたものだ。このような「押し紙」の定義は、実は2003年に名古屋高裁が「押し紙」裁判(裁判そのものは販売店の敗訴)の判決の中ですでに示している。
しかし、新聞業界は独特の論法で法の網の目をすり抜けてきた。過剰になった新聞はすべて販売店が自分で注文した予備紙であり、「押し紙」ではないという詭弁である。日本新聞協会も同じ見解だ。『読売』側も提訴前の原告との折衝で自ら〈「押し紙」行為を行っていた事実はな〉く、濱中氏が長年〈部数の増減に関して虚偽報告を続けて〉いたと認めれば〈話し合いに応じることを検討する用意が〉あると代理人経由で回答した。
司法判断が変わったのは今年5月15日に判決が下された佐賀新聞社を被告とする「押し紙」裁判だ(5月29日号本欄参照)。この裁判でも江上弁護士らは、忠実に新聞特殊指定に則した「押し紙」の定義を採用すべきと主張していた。
佐賀地裁は判決で原告販売店の経営に必要な予備紙は実配数の2%以内で足りるとの原告の主張を認めた。そしてそれを超える部数は独禁法違反の「押し紙」であるとの判断を示した。新聞業界に衝撃が走ったのは言うまでもない。
今回の『読売』・濱中裁判は「押し紙」についての裁判所の見解が変わり始めた時期に起こされた。司法が佐賀地裁での判例を中央紙にも適用するのか、それとも従来の判例に逆戻りさせるのかが注目点だ。今秋には訴訟の審理が始まる。
(黒薮哲哉・フリーランスライター、2020年8月28日号)