福島原発集団訴訟、控訴審で初の「国に責任」認める判決
添田孝史|2020年10月23日7:20PM
【刑事判決が認めなかった長期評価も「合理的な知見」】
また、津波地震の予測(長期評価)そのものについても「被告国自らが地震に関する調査等のために設置し多数の専門学者が参加した機関である地震本部が公表したものとして、個々の学者や民間団体の一見解とはその意義において格段に異なる重要な見解であり、相当程度に客観的かつ合理的根拠を有する科学的知見であったことは動かしがたい」と位置付けた。
これは東電元幹部の刑事裁判判決(19年9月)とは大きく異なった判断だ。同判決では「長期評価の見解が客観的に信頼性、具体性のあったものと認めるには合理的な疑いが残るといわざるを得ない」としている。
しかし、この刑事判決については、海底の堆積物の様子が津波地震の発生に影響を与えているという説が「地震学者の間で広く共有されていた」としていた点などで、指定弁護士は「全くの誤り」と指摘する。この判決の考え方では、1896年の明治三陸地震の津波は説明できても、1677年の房総沖地震の津波などが、うまく説明できないからだ。
指定弁護士は「長期評価の信頼性を否定するために都合の良い事実を恣意的に指摘、評価する一方、長期評価の信頼性を裏付ける事実については指摘を避け、あるいは正当な評価をしておらず、誤っている」(控訴趣意書)と刑事判決を批判していた。
今回、高裁が長期評価の信頼性を認めたことは、ほかの集団訴訟だけでなく、刑事裁判にも影響を与えそうだ。
(添田孝史・ジャーナリスト、2020年10月9日号)