厚労省が介護保険関連の省令改正へ
「要介護者の保険外し」か
吉田啓志|2020年11月2日1:58PM
介護予防・日常生活支援総合事業(通称「総合事業」)とは、介護の必要度が低い「要支援」の人を対象とした市区町村の事業を指す。厚生労働省はその総合事業のうち訪問・通所型サービスについて、要支援より重度の「要介護」になった人も来年4月から使えるようにする省令改正を今月中に行なう。「サービスの選択肢を広げる」というのが理由だが、介護関係の団体などからは「保険外しが広がる」との反対が相次いでいる。
「絶対に認められない」。9月18日、認知症の人と家族の会(鈴木森夫代表理事)は田村憲久厚労相あての「緊急声明」を出し、省令改正案の撤回を求めた。「利用者の自由な選択が十分尊重されるのか懸念される」「要介護者の保険外しに道を拓く」と訴えている。
要介護認定は軽い方から順に、「要支援」1~2と「要介護」1~5の7段階で行なわれる。だが、2014年の介護保険法改正で、要支援1~2の人が訪問介護(調理や掃除など)と通所介護(運動など)のサービスを利用する際は介護保険給付から外れ、総合事業のサービスを受けることになった。狙いは介護保険制度発足時(00年度)の約3倍、10兆円を超えた給付費の抑制にある。「ヘルパーを家政婦代わりにしている利用者がいる」との指摘に乗じ、要支援者を介護保険から締め出した。
総合事業の財源の一部には介護保険料も充てられるものの、全国一律の介護保険サービスとは異なり、利用料や事業者への報酬を市区町村の裁量で決められる。コストを下げるため、住民やボランティアによるサービス提供も可能だ。自治体間では財政力によるサービス格差が生じている。
今回の省令改正は、要支援の人が要介護に重度化しても「本人が希望し、市区町村が認めた場合」は引き続き総合事業の訪問・通所型サービスを受けられるようにする、との内容だ。目的に関して厚労省は「『要介護になっても馴染みのあるサービスを継続して受けたい』という要望がある」などと説明し、「介護保険サービスと併用もできる」と言う。
それでも関係者は不安を募らせている。「要支援から要介護になった人を総合事業に留める手段では」(家族の会幹部)との疑念がぬぐえないからだ。背景には厚労省が要支援者に続き、要介護1~2向けの生活援助サービスも総合事業に移そうとしていることがある。この「要介護者の保険外し」を巡り、同省は21年度改正では土壇場で断念した。しかし、24年度改正に向けた審議会の場に検討材料として早々と提起している。