東京メトロ売店員への退職金不支給めぐり逆転判決
最高裁、非正規への格差容認
青龍美和子|2020年11月5日11:27AM
【人権を守る最後の砦がその役割を放棄するのか】
労働契約法20条は、職務の内容等が異なる場合でも、その違いに応じて均衡のとれた労働条件を求める規定である。今回の最高裁判決は、職務の内容や配置の変更の範囲について「一定の相違」があるとしている。均衡を求める規定に照らせば「一定の相違」に応じた「一定の待遇」が認められるはずだが、最高裁は少しでも職務の内容等に相違があれば退職金ゼロでよいと言っている。同日の大阪医科大学事件判決も本件とほぼ同じ理由で元アルバイト職員への賞与ゼロという格差を容認した。明らかに法の趣旨に反する判断だ。
非正規雇用が拡大し、今や国内に2100万人もの非正規労働者がいると言われる。低賃金により生活が困窮し、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」もできない人が大勢いる。非正規労働者に対する格差の拡大は、労働が正当に評価されず、正社員と同じ人間として扱われていないことを意味する。まさに人権問題だ。その人権を守る最後の砦である最高裁が今回のような判決を下したことは、司法の役割を放棄したと言わざるをえない。
しかし今回の最高裁判決は、あくまでメトロコマースという会社における一事例についての判断で、すべての非正規労働者に退職金を支給しなくてもよい、と言っているわけではない。2日後の日本郵便事件の判決では非正規労働者側が勝訴している。今後もあきらめずに格差是正の運動や裁判に取り組んでいきたいと思う。
(青龍美和子・弁護士、2020年10月16日号)