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「社会史・労働史」が欠落している産業遺産情報センター展示
植松青児|2020年11月5日6:12PM
この批判に応えるかたちで日本政府は15年7月、佐藤地ユネスコ大使がユネスコの世界遺産委員会で「1940年代にいくつかの登録対象施設において、意思に反して連れてこられ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいた」ことを認め、「インフォメーションセンターの設置など、犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置を説明戦略に盛り込む」と表明し、同センターの開設に至った。
はたして、このセンターは5年前に日本政府が表明した「犠牲者を記憶にとどめる」ための「適切な措置」足り得ているだろうか。
同センターは6月から完全予約制で一般見学を開始し、筆者も7月16日に一般予約で見学する機会を得た。さらにセンター長の加藤康子氏、主任ガイドの中村陽一氏(元・端島島民)ほかと意見交換する機会を得た。
技術発展史への一面化欠けている社会史の視点
センター内は大型ディスプレイを用いた導入展示のゾーン1、メインとなるパネル展示のゾーン2、そして「犠牲者を記憶にとどめる」内容に関わる資料室となるゾーン3で構成されている。メイン展示は「産業国家への軌跡」というテーマのもと、「揺籃の時代」「造船」「製鉄・製鋼」「石炭産業」「産業国家へ」の五つのコーナーで構成され、日本がわずか半世紀という短期間で近代産業を確立していったプロセスを、パネルや映像で説明している。それぞれのパネルについて、加藤氏から熱のこもった説明を受けた。
しかし、その説明は技術史に一面化したもので、社会史の視点を大きく欠くものであった。たとえば官営八幡製鉄所が日清戦争の戦勝金(当時の日本の国家予算の4年分)を得たことで建設が可能になったことには触れていない。日本の製鉄業の発展は戦争の歴史、戦争に勝った歴史とともにあった、という視点が欠落している。
その旨を質問すると、加藤氏は「現時点の展示はテンポラリー(一時的)なものです。そこまで細かい情報については、これから展示パネルを追加する際に検討したい」と応答した。しかし、それは「細かい情報」だろうか?
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