考えるタネがここにある

週刊金曜日オンライン

  • YouTube
  • Twitter
  • Facebook

【タグ】

「社会史・労働史」が欠落している産業遺産情報センター展示

植松青児|2020年11月5日6:12PM

大きく欠落している石炭産業の労働史の視点

石炭産業の展示では、高い技術力によって「端島は世界有数の海底炭鉱に成長し(略)端島の採炭技術や経験は(略)全国の炭鉱、さらにアジアへと伝播していきました」などの説明が続いた。しかし、ここにも大きな欠落があった。労働史の視点である。

近代産業の発展を可能にしたのは、石炭というエネルギー資源の獲得だった。しかし地下や海中に埋まっている石炭は、危険かつ過酷な作業なしには採掘不可能である。その作業を労働者に強いたことで、石炭産業は成立したはずだ。

日本の石炭産業の歴史は、落盤やガス爆発などの死亡事故や労災(注1)、労働力不足を補うために懲役囚を炭鉱で働かせる「囚人労働」(注2)、「納屋制度」と呼ばれる暴力的な労務支配(注3)などを抜きにしては語れない。

産業遺産に含まれる三つの炭鉱も、それぞれ過酷な労務支配で知られている。

三菱鉱業の高島・端島(軍艦島)の両炭坑は、ともに「二度と帰れぬ鬼が島」などと呼ばれ、過酷な暴力的支配が行なわれた(注4)。

三井鉱山の三池炭鉱(福岡・熊本)は「囚人労働」の割合が高く、1888年には労働者の約69%に及んだ(注5)。また、港での積み込みを担った鹿児島・与論島からの移住者への酷使・差別(ヨーロンと呼ばれ蔑まれた)も知られている(注6)。これらの一切が、メイン展示ではしっかりと紹介されていないのだ。

この視点抜きには「なぜ日本が短期間で西欧の近代産業をキャッチアップしたか」すら説明できないはずである。

【タグ】

●この記事をシェアする

  • facebook
  • twitter
  • Hatena
  • google+
  • Line

電子版をアプリで読む

  • Download on the App Store
  • Google Playで手に入れよう

金曜日ちゃんねる

おすすめ書籍

書影

増補版 ひとめでわかる のんではいけない薬大事典

浜 六郎

発売日:2024/05/17

定価:2500円+税

書影

エシカルに暮らすための12条 地球市民として生きる知恵

古沢広祐(ふるさわ・こうゆう)

発売日:2019/07/29

上へ