熊本県、川辺川ダム容認へ転換
被災者の声は?
つる詳子|2020年12月3日11:47AM
「県、川辺川ダム容認」(11月12日付)、「川辺川ダム 国に要請」(同14日付)と、ここ数日の地元紙『熊本日日新聞』にはダム建設まっしぐらに走ってきた推進派の姿勢がうかがえる見出しが躍る。
7月4日、球磨川を襲った未曽有の水害の翌日、蒲島郁夫熊本県知事は「(支流の)川辺川ダム復活はない」と、従来の姿勢を貫く発言をした。しかし同月6日には「いろいろなダムが存在する。そういうことも踏まえて検討したい」と方向転換。泥まみれの家屋の後片付けに忙しい被災地はダム問題が再び議論されているか否かを考える余裕もない。ダム建設中止のため活動してきた市民団体メンバーのほとんども被災者だ。こんな時を狙って容認への道を急いだとしか言いようがない。
2009年に建設計画が中止になった後、国・県・流域市町村長らは「ダムなし治水」を検討してきたが意見がまとまらず、球磨川の治水は10年以上放置されてきた。この流域市町村長はかつての「川辺川ダム建設促進協議会」メンバー。今回の被災後の「球磨川豪雨検証委員会」、再びダム建設容認に転じた「球磨川流域治水協議会」はほぼ同じ顔触れだ。
中流・下流の被災地を見ると、今回の水害の原因は瀬戸石ダムの存在、流域で800カ所以上崩落した山の荒廃問題にある。だが、そうした問題は検証委員会で議題にも上らなかった。私は多くの被災者の声を聴いたが、ダムを望む意見は皆無。形ばかりで開催された「住民の皆様の御意見・御提案をお聴きする会」も被災者というよりさまざまな団体の代表が多く、「賛否は半々」は当然である。
県のダム容認を受けて前知事の潮谷義子氏は「選ばれた人の意見だけが民意と言えるかは疑問」「堆積土砂の除去など住民が当面困っていることへの対策をするべき」と手厳しいが、まさにこれが被災したほとんどの住民の声である。
(つる詳子・自然観察指導員熊本県連絡会、2020年11月20日号)