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東京五輪反対派が都庁前で抗議
バッハ会長は対話のフリ?
本田雅和|2020年12月7日4:34PM
「オリンピックやってる場合か?コロナ対策にカネ回せ」――東京五輪開催に向けての連携強化のために来日していた国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は11月16日、訪問先の東京都庁前で反対派市民の厳しい抗議の洗礼を受けた。市民団体「反五輪の会」や「オリンピック災害おことわリンク」の人たちだ。
都内の公園でテント暮らしを続ける美術家、いちむらみさこさん(49歳)もその一人だ。いちむらさんが反五輪運動を始めたのは、2013年9月の東京開催決定よりも半年以上も前。のちに五輪招致汚職に関わった容疑で仏検察当局から事情聴取を受けた竹田恆和・日本オリンピック委員会(JOC)前会長や石原慎太郎・元都知事らの招致運動の最中だった。
東日本大震災や原発事故の被災地には瓦礫が残って復興からは程遠く、五輪の“環境整備”のために、ホームレス仲間が公園などから強制排除される動きが顕在化していた。五輪の先行開催地のブラジルなどでも「貧困者の排除」が頻発していたことにも、いちむらさんらは危機感を抱いていた。
「多くの人々が世界的パンデミックの中で開催は無理だと思っているのに、『震災からの復興』が『コロナからの復興』にすり替えられて演出される虚構のショーへの我慢ならない思い」を五輪主催者側に直接届けたかったという。
【バッハ氏と瞬時の「遭遇事件」発生】
しかし、抗議に出向いた都庁前での「バッハとの接近遭遇」は想定外だった。「五輪は貧困者を殺す」などと書いた横断幕を広げていると、バッハ会長を乗せた黒いワゴン車が駐車場に入ってきた。いちむらさんらは「オリンピックはいらない」「IOCを廃止せよ」などと英語で懸命に主張した。
小池百合子都知事らとの会談を終えて、再び玄関に現れたバッハ会長は、警備陣らにとっても予想外の行動に出る。トコトコと反対派の方に歩み寄り、垣根を挟んで「話したいのか叫びたいのか、どっちなのか?」と尋ねてきた。仲間たちは「これ以上五輪に税金を使うな」などと静かに説明しようとしたが、私服警官らに阻まれ、声が大きくなっていったという。バッハ会長は興奮して「トーク オア シャウト?」と同じ問いを繰り返した。「私たちだけ公安に囲まれ、こんなアンフェアな関係で対話などできるわけがない。これが五輪の本質だ」という。
その後の記者会見で記者からこの件を尋ねられたバッハ会長は「彼らが何を言いたいのか対話を試みたが、彼らは叫ぶだけだった」などと語った。会のメンバーは「自分から寄ってきて自分から逃げていったくせに。トーンポリシング(発言の内容ではなく言葉遣いや態度を非難して、当事者の意見や主張を封殺しようとする政治的手法)だ」と反発している。
神奈川県の学校職員、京極紀子さん(64歳)らは翌17日、バッハ会長が視察した国立競技場や日本オリンピックミュージアム、JOCが入る建物前などでの抗議行動に参加した。この日は前日のバッハ会長との「接近遭遇事件」があっただけに、反対派市民の数十倍の100人以上の私服警官・公安職員らが、京極さんらを尾行したり、行く先を阻止したりした。
しかし、それでも建物の一つでバッハ会長らがレセプションらしきものをしているのを発見。ガラス張りだったので外から抗議を続けると、一緒にいた東京五輪公式記録映画の河瀨直美監督が反対派市民に向けて動画撮影を始めた。怒った京極さんらは「勝手に撮らないで下さい」「翼賛映画に私たちのことを利用するな」などと声をあげた。
もう一つ指摘しておきたい。今年末に契約期限を迎えるパートナー企業の間に五輪実現への不安があることを会見で指摘したNHK記者に対し、森喜朗・大会組織委員会会長が「NHKらしくない設問だ」と批判した。組織委会長はいつから報道機関に対し「らしさ」を決める立ち場になったのか。さらに残念なのは当のNHK記者が一切抗議しなかったことだ。
(本田雅和・編集部、2020年11月27日号)