生殖補助医療法案に研究者ら意見表明
「出自を知る権利」重視せよ
岩崎眞美子|2021年1月4日3:11PM
第三者が提供した精子や卵子を使った生殖補助医療で、生まれた子どもの親子関係を定める民法の特例に関する法案が、今国会で審議されている。法案はすでに11月20日に参議院で可決。このまま衆議院でも可決される見通しだ。
関連する法案は1998年から5年間をかけて旧厚生省厚生科学審議会でていねいに議論されてきた経緯がある。しかし今回の法案では、生まれた子の出自を知る権利や、代理出産の可否など、長年議論が蓄積されている重要な問題については言及せず、その多くを2年後をめどに法制上の措置を講じる、という附則にまわしている。
この状況を受けて11月24日、非配偶者間の人工授精(AID)で生まれた当事者や研究者たちによる生殖補助医療法案の修正を求める記者会見が行なわれた。
慶應義塾大学の講師で、AIDで生まれた人たちの自助グループと関わり続けてきた長沖暁子さんは、法案の修正を求めて国会議員と多く会話する中で、同法案を「不妊治療を求める人を応援する法案」だと思い賛成した議員が多いと指摘。これまでの報道もそれに準じるものが多かったと述べた。
「実際には、この法案は卵子提供と精子提供で生まれた子どもの親子関係を規定することだけを目的にしたものです。生殖補助医療をめぐる議論では理念が非常に重要なのに、その理念なしに、精子提供だけでなく卵子提供や代理出産まで認めてしまおうとしている」(長沖さん)
2003年に出された厚生科学審議会の報告書には、生殖補助医療で生まれた人は15歳以降、本人が望めば精子・卵子・胚の提供者の情報を開示請求ができる「出自を知る権利」が結論として記されていた。だが、17年後の今も法制化はされていない。今回の法案でも「出自を知る権利」は記されず、附則に記されるに止まっている。
生殖補助医療を医療人類学・生命倫理学から研究する柘植あづみ明治学院大学教授も、子どもの権利の尊重と福祉の視点に加えて提供者の情報の収集と管理については法律の施行と共に開始するべきと述べた。
「生殖補助医療はホルモン薬の使用による副作用もあり、女性や、生まれた子どもへの長期的な影響もまだわかっていません。決して安全な技術ではないし、成功率も高くない。副作用や成功率などのインフォームドコンセントや、相談や意思決定支援も充実させる必要があります」(柘植さん)