「渋谷区ホームレス女性殺害」抗議と追悼に170人
「私たちはゴミじゃない、人間だ」
渡部睦美|2021年1月5日6:31PM
【女性殺害は他人事でない】
女性の路上生活者はセクハラ、窃盗、暴行などさまざまな襲撃のターゲットになりやすい。このため怖くて横になって眠れず、座って寝る女性の路上生活者は多いという。Mさんも襲撃された際、ベンチで座って寝ていたとみられている。ノラのメンバーのひとりは、「事件は人ごとではない。女だからと、攻撃したり、言うことを聞かせようとする人たちがいて、何かされるんじゃないかといつもとても怖い」と筆者に話した。高齢の路上生活者も襲撃に遭いやすい。今年、わかっているだけでも1月に上野で70代女性が、3月に岐阜で80代男性が殺害されている。
事件後、以前から活動をともにしてきたノラのメンバーとアジア女性資料センターの本山央子さんが「他人事ではない」と話し合い、今回の集会・デモが10日ほどの間で企画された。本山さんは集会で、「政府は自助・共助を強制し、公助へのアクセスを積極的に拒んでいる」とし、「目指す社会像」に「自助・共助・公助」を掲げる菅義偉政権を批判。「弱者を構造的に追い込む社会的な暴力がある。社会全体の仕組みを変え、方向転換していかなければ」と話した。
集会には呼びかけ文を英訳した名波ナミさんも参加。逮捕された男性がゴミ拾いのボランティアをしている人物であったと報じられていることについて、「道で寝ているからといって私たちはゴミじゃない」と訴えると、「そうだ、人間だ!」と共感する声があがった。
韓国の当事者団体からも賛同のメッセージが寄せられ、「(今回の事件は)女性とマイノリティに安全な路上はないとの真実を示している。だからといって家が安全な場所かといえば、 そうでもない。コロナ対策で『家にいること』 が求められているが、家事労働とケア労働の疲労を訴える女性は多く、 DV、望まない妊娠、自死を選ぶ女性も急増している」と、韓国でも同様な状況にあることを指摘していた。横浜・寿町で炊き出しをしている参加者の山本薫子都立大学准教授に話を聞くと、「街をみると女性の路上生活者がかつてないほどに増えている。家から逃げているなどの理由で家族に知られるのを恐れ、福祉事務所に行くのを嫌がる女性も多く、支援につなげにくい」と話した。
デモでは、「彼女は私だ」「すべての人にHOMEを!!」「NOヘイトクライム(憎悪犯罪)」などのメッセージが掲げられた。デモは、渋谷の大規模再開発の一環として野宿者が排除され、三井不動産などによるショッピングモールが建てられた宮下公園跡の前も通過。「ねる会議」の小川てつオさんは、「宮下公園にはたくさんの野宿者が住んでいた。渋谷が何を優先し、排除してきた街なのかを考えれば、行政の態度と今回の事件は無関係でないことがわかる。Mさんも公園などにいられずに、バス停にたどりついたのかもしれない」と語った。参加者らは「もう殺すな、死なせるな」などと訴えた。
(渡部睦美・編集部、2020年12月11日号)