第二次別姓訴訟高裁判決
3高裁で棄却、最高裁へ
宮本有紀|2021年1月13日4:05PM
婚姻時に夫婦別姓の選択肢を認めない民法や戸籍法の規定は、別姓を望む者だけが法律婚できないという「信条による差別」にあたり憲法違反だとして国に損害賠償を求めている訴訟の控訴審判決が東京高裁で10月20日、23日と続けてあり、いずれも原告の訴えを退けた。
20日に判決が出たのは、大学の研究者ら事実婚夫妻が原告で一審が東京地裁本庁だった訴訟。23日に判決が出たのは、40代から70 代の会社員ら事実婚夫妻6人が原告で、一審が東京地裁立川支部だった訴訟だ。同様の別姓訴訟は広島高裁でも9月に原告の訴えを棄却する判決がでており、これで三つの高裁判決が出そろった。
夫婦同氏が婚姻の効力ではなく、事実上成立要件となっているという原告の主張を広島高裁では認めたが、20日の判決( 後藤博裁判長)は効力にすぎないとした。また、 結婚による改姓で不利益を感じる人が増えていることや結婚をためらう制約になっていることなどは認めつつも、旧姓を通称として使用することが社会的に広まっていることで「不利益は一定程度緩和され得る」として、現行規定はどれも憲法違反ではないと結論づけた。
弁護団らは判決後に記者会見し、「2015年の(第一次別姓訴訟)最高裁判決の説をそのまま使っただけという印象。婚姻届に夫婦の氏を記載しなければ受理されないのに、これが要件ではないということは、同じ法律家として、私たちには理解できない」(榊原富士子弁護団長)と批判。同席した広島高裁での原告、恩地いづみさんは「名前(姓)を失うということはそれまでの人生と結びついているものを失うこと。結婚するとき、2人とも新しい名前になるのなら平等だが、1人はそれまでの人生を捨てずに変わらぬ名前を持ったままで1人だけが今までの人生を失って、名前を変えないといけないのは平等とは言えない。名前を変えたこともない裁判官に、通称使用が広まっているから不利益は緩和されているということは言われたくなかった」と失望を表明した。
23 日の判決(岩井伸晃裁判長)も同様に夫婦同氏が婚姻の成立要件とは認めず、2015年最高裁判決後の通称使用拡大で不利益は一定程度緩和されているとした。一部、別姓を希望することは信条に値するとした東京地裁立川支部での判決を維持した点については弁護団も評価しつつ、「人間の重要な考え方である信条に該当するのならば、それを通せないのはおかしいという結論になるべきだが、そうはなっていない」(寺原真希子弁護士)と指摘した。
判決後、原告らは「歴史を前に進めるような判決を期待したが、元に戻るような後ろ向きな判決で残念。ただ、自民党内でも選択的夫婦別姓を検討する動きが出ているということだし世論でも認める動きは広がっているのでめげずに最高裁に行く」(山崎精一さん)、「夫婦と親子が同氏という価値観は否定すべきでないと判決にあったが、選択的夫婦別姓はそれを否定しない。実際に私たちのように夫婦が別姓で親子の姓が違う家族が普通に暮らしている。その存在を司法でも認めてほしい。あと、別姓で結婚したい人たちには旧姓が存在しないので、通称使用の拡大は姓を変えたくない人たちへの対策ではないということを主張したい」(40 代女性)、「判決に、氏は〈名とは切り離された存在として(略)家族の呼称としての意義がある〉とあるが、そうではないと思う。ステップファミリーや里親による養育家庭などでは名前の違う人が共に暮らし、みんな家族だと思っている。氏が家族を表すのではないパターンが山のようにあることを明らかにしていく」(40代男性)などと語った。
広島の裁判は上告済み。東京の裁判も5日に上告予定で、3件はあわせての審理になると予想される。弁護団は「下級審の裁判官が消極的な判断をすることはある程度予測できた。最高裁の判決は最高裁しか変えられないと思うので、最高裁が本番。違憲判決をとり、現行規定をどう変えるかというところも考えていきたい」(野口敏彦弁護士)、「1980年代から選択的夫婦別姓問題をやっている。当時は何を変なことを言っていると叩かれたが、いまは熱い弁護団がいるし、世論も変わっている。時間がかかっても私たちは必ず勝つと思う」(榊原弁護団長)と意気込みを見せた。
(宮本有紀・編集部、20年11月6日号掲載)