潮目を迎える菅政権
後手に回るコロナ対策で支持率急落
吉田啓志|2021年1月15日6:44PM
菅義偉首相は携帯電話料金の値下げや不妊治療への保険適用など実利を重視した個別政策の積み上げをスタイルとしている。だが、全体ビジョンに欠ける政策で有権者の歓心を買う手法には限界も窺える。「ぶれない強さ」が信条の首相ながら年末には「Go To トラベル」の一斉停止で躓き、高齢者の医療費負担増では妥協を迫られた。発足から3カ月余り。菅政権は早々に潮目を迎えている。
「国民の誤解を招くという意味においては、真摯に反省をいたしております」。12月16日夜、新型コロナウイルスの猛威を前に首相は神妙だった。政府が大人数での飲食自粛を呼びかけている最中の14日夜、自民党の二階俊博幹事長ら8人で会食したことへの反省の弁だ。「Go To トラベル」の急転直下の停止で釈明に追われた直後でもあり、首相の周辺からは「屈辱だったろう」との声が漏れる。21日には首相に近い吉川貴盛元農林水産相が献金疑惑で議員辞職表明に追い込まれ、逆風が強まった。
9日夜。公明党の山口那津男代表は、75歳以上の医療費窓口負担(原則1割)の引き上げを巡る自公両党の対立が解けないまま首相との会談に臨んだ。2割負担を求める年収基準に関し、自民党は首相の意を受けて約520万人が負担増となる「170万円以上」を主張。片や公明党は対象を約200万人に抑えられる「240万円以上」で押し返していた。
トップ会談は両党実務者のすり合わせ後の儀式というのが相場。しかし何事も自分で決めたがる首相は「170万円以上は絶対譲らない」と言い張り、自民党の実務者は妥協案を作れずにいた。それがこの日、首相は冒頭で「『200万円以上』でどうですか」と自ら降りた。山口氏も対象者が約370万人に減るこの案を受け入れながらも「私たちで決着せずとも済む方法を検討しましょう」と伝えざるを得なかった。閣僚経験者は「首相は党に耳を貸さず突っ張った挙げ句、勝手に折れた」と不信感を隠さない。