新聞折り込みの自治体広報誌「部数水増し」問題深刻化
毎月数十万部の残紙発生
黒薮哲哉|2021年1月22日6:05PM
税金で制作され、新聞折り込みの形で配布される埼玉県の広報紙『彩の国だより』(月刊)の一部が実際には配達されずに大量に廃棄されている疑惑が浮上した。2020年11月の時点で、新聞折り込みに割り当てられる同紙の卸部数は約201万部。これに対して埼玉県全域における新聞の販売部数(『朝日新聞』など全国紙5紙と『東京新聞』『埼玉新聞』の合計)は約179万部(同年4月のABC部数)と、約22万部が水増し状態になっている。残紙があれば水増しの規模はさらに大きくなる。
埼玉県が仲介業者へ支払う折り込み手数料は1部に付き7・62円。水増し分の22万部分の折り込み手数料は月額約168万円で、年間では2000万円を超える。
『彩の国だより』を扱う広告代理店は埼玉県折込広告事業協同組合(さいたま市北区)だ。埼玉県庁公聴広報課によると、同組合が埼玉県に新聞に折り込む媒体の「必要部数」を提示しているという。筆者が指摘した水増し行為について同課は「調査中」としている。
JR上尾駅から遠く離れた住宅街にある同組合の古びた事務所を訪ねると、ガラス戸のカーテンは閉まっていたが中に年配の女性が一人いた。責任者に面談を求めたが不在。「代表はどちらの系統の新聞の方ですか?」と尋ねても返答はなく、隣接する倉庫にも人の気配はなかった。事前に電話取材も試みていたが、事情を聞き出すことはできなかった。
広報紙の水増しは、この『彩の国だより』に限ったことではない。筆者らが調査したところ、滋賀県など他の多くの自治体でも広報紙の水増し現象が起きている。
こうした現象が起こる背景には新聞販売店が、残紙で被る損害を折り込み媒体の水増し(その数字を根拠に価格設定した広告取引で収入獲得)で相殺するビジネスモデルがある。販売制度自体に根本的な問題があるのだ。
(黒薮哲哉・フリーランスライター、2021年1月8日号)