吉川元農水相現金授受問題の背景とは
海外から日本の鶏飼育方法に批判も
岡田千尋|2021年1月25日1:26PM
鶏卵大手アキタフーズ前代表から農林水産大臣だった吉川貴盛氏への現金授受問題は、採卵鶏へのアニマルウェルフェア(習性や快適性に配慮した飼育。以下AW)の問題との関連がありそうだ。
2017年からOIE(国際獣疫事務局=動物衛生向上を目指す政府間機関)は採卵鶏のAW基準を作成している。翌18年OIEは、身を守りたいという鶏の強い欲求を満たすために止まり木などの設置を必須にするなどを盛り込んだ基準案を提案した。だが日本の養鶏場の多くはバタリーケージという身動きの取れないケージで飼育しているため対応できない。現金授受には日本政府も巻き込んだ対応回避の思惑もあるのではないか。
功を奏してか日本政府はOIEに何度も「多様な生産様式を考慮」すべきと、古い日本の飼育方法を擁護する意見をし、日本の飼育が基準からはみ出すことを防ごうとした。19年OIEは必須だった基準を推奨に緩和し、さらに日本が根拠なく提案したAWを阻害する一文を加えた。この案は今年5月にそのまま採択される見込みだ。
昨年末、私たちは鶏保護の国際連盟と国内動物保護7団体とともに、前記の日本提案に基づく基準案を見直し信頼を回復するようOIEに求めた。OIEは日本の意見だけで案が決まるわけではないと要望を拒否している。
世界は現在、卵用の鶏の飼育を平飼いにすべて切り替える「ケージフリー」に向かっている。すでにEUで流通する卵の52%はケージフリーだし、韓国やタイ、南米等でも対応が進んでいる。
世界でAWが発展するのは、動物の倫理的扱いを求める消費者ニーズとともに、その健康が人の健康や人の疾病の発生に関係しているからだ。人々の未来のために必要なAWが、一企業や業界、政治家のために阻害されて良いはずはない。畜産物の大量消費や動物の扱い方を見直さなくてはならない。
(岡田千尋・アニマルライツセンター、2021年1月8日号)