都教委が「日の丸・君が代」不起立の教諭を再処分
繰り返される裁量権の濫用
永尾俊彦|2021年1月29日3:21PM
東京都教育委員会は昨年12月25日、2012年度卒業式、13年度入学式の国歌斉唱時に国旗に向かって起立し斉唱するよう校長から命じられていたのに起立しなかった都立特別支援学校の田中聡史教諭(51歳)を、職務命令に違反したとして戒告処分にした。
田中さんは前記不起立に関し、13年の3月と4月に都教委からそれぞれ減給10分の1・1カ月の懲戒処分を受けたが、取り消しを求めて提訴。19年3月、最高裁は都教委の上告受理申し立てに対し不受理を決定し、減給処分を「裁量権を逸脱又は濫用した」として取り消した東京高裁判決(18年4月)が確定していた。
「『日の丸・君が代』不当処分撤回を求める被処分者の会」によれば、都教委が「日の丸・君が代」を強制する「10・23通達」を03年に出して以来、これで職務命令に従わずに処分された都立学校の教職員はのべ484人。そのうち、田中さんのように当初の処分取り消しが裁判で確定した後、新たに戒告処分を出し直された(再処分)者の総数は19人になった。
同会の近藤徹事務局長は「都教委は違法な処分をしたのに反省せず、謝罪するどころか、最高裁決定から1年9カ月も後に、7年以上も前の事件で田中さんを再処分しました。しかも再処分に向けた事情聴取では弁護士の同席を求めたのに無視。事情聴取さえ行なわず、コロナ対策の消毒をしていた田中さんを校長室に呼び出して都教育庁から派遣された職員が再処分を発令したのです」と憤る。
近藤さん、田中さんらが処分取り消しを求めた東京「君が代」裁判は、これまで1次から4次訴訟まで提訴されたが、平松真二郎弁護士は都教委をこう批判する。
「田中さんは減給処分を受けただけでなく、それにともなう(地方公務員法などの)再発防止研修も受講させられるなどの不利益を課されました。それらを考慮せず、減給処分が取り消されたから戒告処分ならいいだろうという都教委の姿勢は処分権の濫用と言わざるをえません。しかも今回、都教委は田中さんに弁明の機会を与えることなく再処分しました。これは手続き的な適正を欠くものです」
【本人「反省しようがない」都教委「謝罪はしない」】
田中さんは、これまで10回の不起立を繰り返し、処分されている。
「日の丸・君が代」はかつての侵略戦争や植民地支配の象徴であり、敬意は表明できないというのが田中さんの信念だ。そして今や「日の丸・君が代」強制は子どもたちにも及んでいる。「自分を偽るのは教員としての良心をさいなみます。子どもたちも教員が本当の姿を見せているか否かは感じると思うんです」と田中さんは語る。
だから裁判の中で「私には反省のしようがないんです」と田中さんは証言している。
そういう田中さんを処分することに一体何の意味があるのか。都教育庁人事部職員課の石川大輔・教職員服務担当課長に聞いた。
――田中さんが「反省のしようがない」と言っていることは知っていますか。
石川 事故者の記事(裁判記録)は読んでいます。処分は職務命令を順守しなかったからで、内心の思想には立ち入っていません。
――反省のしようがない田中さんを再処分するのは転向を迫っていることになりませんか。
石川 今回の処分は当初の処分量定が(裁判で)過大とされたからです。
――量定が間違っていたなら、謝罪をすべきではないですか。
石川 (裁判では)事実関係は間違っていないと認定されたので、謝罪はしません。
――再処分は二重の苦しみを与えることになりませんか。
石川 (裁判で)処分自体は認められていると考えています。
――事情聴取で弁護士の立ち会いを認めなかったのはなぜですか。
石川 直接田中さんから事情を聴きたかったからです。
田中さんらは、再処分と戒告処分などの取り消しを求め、年度内にも東京「君が代」裁判5次訴訟を提訴したいと準備している。
(永尾俊彦・ルポライター、2021年1月8日号)