『産経新聞』「押し紙」裁判、原告敗訴
「押し紙」認めるも責任認めず?
黒薮哲哉|2021年2月1日11:50AM
【元店主は控訴せず】
以下、判決の内容を筆者の視点から検証する。結論から先に言えば野村裁判長は「押し紙」の存在そのものは認めたが、あれこれと辻褄の合わない理由をつけて結局産経の損害賠償責任をすべて免責したのである。たとえば判決文の次の部分に核心が表れている。
「平成28年1月から5月までの期間に関しては、被告(引注:産経)による減紙要求の拒絶がいわゆる押し紙に当たり得るとしても、原告が実際に被った負担は極めて限定的であり、原被告間で営業所の引継ぎに関する協議をする中で原告が顧客名簿の開示に応じないなどの対応をしていたとの交渉経過があったことにも照らすと、この間の本件各契約を無効とするまでの違法性があるとはいえない」
文中の「減紙要求の拒絶」とは、元店主が新聞の搬入部数を減らすように産経に要求したが、同社がそれを拒絶したことを意味する。それが「押し紙」行為にあたることは論をまたない。
しかし今回の判決は「営業所の引継ぎに関する協議をする中で原告が顧客名簿の開示に応じないなどの対応を」取ったことなどを理由に「押し紙」による原告の被害を帳消しにした。「押し紙」行為と、元店主による顧客名簿の開示拒否は別次元の話だが、判決では両者を結びつけたうえ、他にも過剰な部数を押し付けた証拠がないとか、元店主が被害を被った期間が短いなどの理由をつけて、産経の損害賠償責任を免責したのだ。
元店主が控訴しなかったので、この判決は確定した。控訴しなかった理由について、元店主は次のように筆者に話した。
「司法制度が信用できなくなったからです。新聞社を相手に裁判をしても、まず勝てません。裁判が公正・中立というのはまったくの幻想です」
敗訴した側が判決を批判するのは当然だ。だがその点を配慮してもこの裁判では裁判官交代の過程がおかしいうえに、審理内容と判決内容とが整合していない。
筆者は産経にコメントを求めたが、回答はなかった。
(黒薮哲哉・『メディア黒書』主宰者、2021年1月8日号)