青森県大間町選、新人・野崎尚文氏初当選
隠れた争点は「原発」
隈元信一|2021年2月22日8:11PM
建設中の大間原発を抱える青森県大間町の町長選挙が1月17日、投開票された。2人の一騎打ちで、元同町課長で無所属新人の野崎尚文氏(65歳)が初当選。無所属現職の金澤満春氏(70歳)は5選を果たせなかった。野崎氏が1766票、金澤氏が1607票だった。
地元紙などは、有権者が「変化」を選択したのは「16年間続いて飽きられた」ためと分析する。金澤町政の16年だけでなく、その前から続く「金澤一族」の町政。多選批判の声は確かに強かった。
東日本大震災後、建設工事が中断している大間原発については、ともに推進の立場。前回は反原発派が出馬し、原発も争点になったが、今回は争点にならなかった。だが大間は原発を抜きに語れない。
4年前を思い出す。初出馬した野崎氏は初め「原発に頼らない財政」を前面に出した。それを反原発だと現職陣営に攻撃され、「電力業界が現職の応援に動いた」という見方もあった。その反省から、今回は原発の争点化をあえて避けたのだろう。当選後に電話すると、野崎氏はこう語った。
「原発は推進。交付金も使って町を活性化したい。観光の拠点になるマグロ会館を建設し、マグロの町として明るさを取り戻したい」
電源三法交付金だけでも町には年に約2億7000万円(2019年度実績)が入る。この状態を維持しながら原発以外の財源を増やし、漁業・観光振興や教育の充実を図っていく。日本体育大学出身で少年野球の監督なども務める野崎氏は、そう考えているようだ。
野崎氏に投票した有権者の中には、反原発の思いを熱く語る人もいる。実は大間は「隠れ反原発」が少なくない。それはそうだろう。せっかく築いた大間マグロのブランドを原発の風評被害で壊したい漁民がいるだろうか。ある漁民が言うように「原発反対でも声をあげにくいだけ」なのだ。
静かな「変化」が始まった。私はそう見ている。
(隈元信一・元朝日新聞むつ支局長、2021年1月29日号)