「デジタル監視法案」に法律家らが意見書
市民への監視強化の危険指摘
渡辺浩美|2021年3月16日3:55PM
【「標準化」名目で管理強化】
これまで個人情報に関する法令は、国や都道府県、全国の市町村などがそれぞれ個別に定めて独立運用してきた。そのため情報システムの運用やデータ共有の方式、手続きなどはバラバラ。現在の日本の行政現場では約2000個にもおよぶ情報システムが存在・運用されているといわれる。そのため2013年の、いわゆるマイナンバー法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)成立後も行政機関同士の情報共有は難しく、運営する自治体が異なる公立病院間では患者情報のやり取りができなかったり、災害時の情報共有ができない状態が続いていた。
結局マイナンバーだけでは地方自治体が管理する情報を、さらに国が一元管理することなどは物理的にできなかったわけだ。そこで国は今回の法案を成立させることで行政事務の効率化と情報の集約を図ろうと目論んでいる。しかしその場合、情報が国の下に集まることに伴う市民への監視・管理強化への不安が生じるほか、個人情報の漏洩リスクも懸念される。だとすれば、プライバシー保護のためのより手厚い制度の導入が、同時に必要とされるはずである。
総務省の「行政機関等個人情報保護法制研究会」委員などを歴任した三宅弘弁護士は「長年、政府の使い走りをしてきた身だが」と自嘲しながら「今回の法案は便利さをはかるばかりで個人情報保護の観点に欠け過ぎている」と強く批判した。
今回「法律家ネット」が「意見の趣旨」として指摘した主な問題点は以下の通り。法案の審議は3月半ばに始まる見込みだ。
(1)データ主体である本人の同意抜きでの省庁間の情報共有を容易化している。
(2)転職時等に使用者間で従業員の特定個人情報提供を認めている。
(3)医師や看護師など国家資格者のマイナンバー登録を義務づけた。
(4)訪問販売等の取引類型(通信販売を除く)全部と預託等取引契約についてオンラインか対面かを区別せず、契約書面などの交付義務に関して電子化を認めている。
(5)標準化の名の下に、地方自治体が積み重ねてきた個人情報保護の仕組みを無効化している。
(6)個人のプライバシー保護のための基本的な制度の整備が必要。
(7)個人情報保護委員会の組織を拡大強化し、独立性を高め、監督権限も強化することが必要不可欠。
(8)特定秘密の指定と情報機関の諸活動への特別の監視機関が必要。
(渡辺浩美・ジャーナリスト、2021年3月5日号)