「慰安婦=公娼」ラムザイヤー論文に批判殺到
学問の顔したヘイトスピーチ
2021年3月26日5:25PM
【英語圏の著名大学の権威利用】
これに対し国内では3月10日、歴史学研究会、歴史科学協議会、歴史教育者協議会の3学会と、「慰安婦」問題の解決をめざして史料や証言をウェブサイトで提供している研究者・アクティビスト団体「Fight for Justice」(FFJ)が合同で緊急声明を発表した。
声明は、「慰安婦」被害否定論が、被害者本人の名乗りが始まった1990年代から繰り返されてきたことを指摘。今回のラ論文が「英語圏の著名大学の権威を利用した、新たな装いの言説」としたうえで、(1)「慰安婦」制度は公娼制度と異なり、軍が指示・命令して設置・管理し、「慰安婦」も軍が直接または指示・命令して徴募したなど軍の主体的関与の史料を無視している(2)多くの女性は詐欺や暴力や人身売買で「慰安婦」にさせられたことは膨大な研究から明らかなのに、契約と主張しながら契約書の存在も示していない(3)公娼制度の説明でも人身売買の実態を示す史料は無視し、文献の恣意的使用で娼妓を自由契約の主体のように論じている(4)女性の人権を無視し、当時の国内刑法や国際法違反行為を検討した形跡もない――として掲載撤回を求めた。
FFJの金富子・東京外国語大学教授(ジェンダー史)は取材に対し、「この論文は学会のヘイトスピーチといえる。このままでは学問の自由の名で学問が崩壊しかねない」と危機感を表明した。
3月14日にオンラインで開かれた4団体主催のセミナーでは、シンガポール国立大学の茶谷さやか助教授(日本帝国社会史)が、ラ論文の「根拠不在」や「史料歪曲」についてファクト・チェックした文書はラ論文そのものの頁数を上回ったことを報告。「間違いや無理解というより、研究上の不正そのもの」との見方を示した。
「慰安婦」制度への軍の直接関与や強制性を示すさまざまな公文書を発掘してきた吉見義明・中央大学名誉教授はラ論文の「慰安婦が契約の主体」「慰安婦は高収入」などの説に豊富な史料から反証。日本人「慰安婦」や一部の朝鮮人「慰安婦」で契約がある場合も親族や業者らが契約主体だったと反論した。
公娼制度研究の小野沢あかね・立教大学教授は「娼妓契約は事実上の人身売買であり、軍の関与では異なるが、『慰安婦』制度とともに性奴隷制度」としたうえで「『慰安婦』は公娼だったから被害者ではない」とするラ論法は「著しく低い人権意識を表す」と批判した。
ラ教授の歴史認識以前に、「学術論文として破綻している」との批判は、ハーバード大学内部からもあがっており、IRLEで始まった内部調査にラ教授が今後、どう応えていくかが注目される。
(本田雅和・編集部、2021年3月19日号)