中国人ビザ発給拒否は外務省による政権への忖度か
片岡伸行|2021年4月6日2:43PM
日本国内の集会で、旧日本軍による細菌戦の被害を証言するはずだった中国人へのビザ(入国査証)発給拒否は、外務省による政権への忖度だったのか。中国人査証発給拒否国家賠償請求訴訟の控訴審判決が3月17日に東京高裁で出され、白井幸夫裁判長は「集会に少なからぬ影響があった」と認めながらも「外務大臣は広範な裁量権を有する」などとして、一審判決(2020年1月30日・東京地裁)に続き原告側の請求を棄却した。
集会は安倍政権下で安保法制(戦争法)が成立した直後の15年11月、「戦争法の廃止を求め侵略と植民地支配の歴史を直視しアジアに平和をつくる集い」と題して市民団体「アジアと日本の連帯実行委員会」が主催。しかし外務省が直前になって、集会に招かれていた中国湖南省の弁護士・高鋒さんら3人の証言者と支援者ら計12人のビザ発給を拒否したため、高さんらは入国できなかった。中国側証言者3人と主催者側の藤田高景さんら計6人は「憲法21条で保障された集会の自由を侵害するもので、査証発給拒否は裁量権の濫用だ」などとして、16年3月に日本政府と外務大臣を訴えていた。
判決後、司法記者クラブで会見した藤田さんは「ビザ発給を拒否された12人は公務員や弁護士らで、それまで頻繁に来日していた。国側は裁判で発給拒否の理由を一切言わなかったが、外務省が安倍政権に忖度して集会を妨害するために発給拒否したのは明らか」とし、「きわめて不当な判決で上告を検討する」と述べた。
原告の一人、高さんは湖南省常徳市から日本語でコメントを寄せた。日本政府が現在も細菌戦の事実を認めていないことを指摘したうえで「東京での国際集会は日本の市民に細菌戦の事実を知らせる絶好の機会でした」、そして今回の判決について「不当で許せません。私たちは最高裁判所まで闘いたい」と怒りをにじませた。
(片岡伸行・記者、2021年3月26日号)