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「ラムザイヤー論文騒動」の背景にある白人至上主義
小山 エミ|2021年4月22日4:34PM
理論提唱のための「道具」
ラムザイヤー氏はモイニハン報告をほかの論文でも同調的に繰り返し援用しつつ、米国の人種問題について自分の意見を主張するとモイニハン氏と同じように(かれにとっては理不尽な)批判を浴びることになるので、それを避けるためにあえて国際的にはよく知られていない日本の事例を挙げていると説明している。
日本のマイノリティだけでなく日本自体がかれの「一般的な」理論を提唱するための道具として扱われているわけだが、現にこれらの差別的な論文が今回「慰安婦」論文が騒がれるまで見過ごされてきたことを考えると、その目論見は大方うまくいっていた。今回の騒動は、「慰安婦」論文が日韓のナショナリストに注目されたことをきっかけに国際的な問題になることを見抜けず、批判から逃れられるギリギリのラインを見誤ったラムザイヤー氏の失態だと言うほかない。
かれの右派的な主張は、マイノリティに関するものだけではない。たとえば2015年に出版された「父親たちの罪」という論文では、「婚外子」に対する相続上の差別に違憲判断を出した13年の日本の最高裁判決は家庭を崩壊させると批判している。また13年発表の「法曹界の最下層」では、いわゆる「グレーゾーン金利」に基づいた過払い金返還訴訟を可能にした最高裁判決を批判した。これらの判決に共通するのは、被害者への救済が行なわれたということだ。
また3月8日にハーバード大学で行なわれたカルロス・ゴーン元日産会長の東京地検特捜部による取り調べについてのセミナーでは、国際的に「人質司法」と批判されたほど異様に長い勾留や、本命の特別背任罪ではなく金融商品取引法違反によって別件逮捕されたことなど、日本の刑事司法に対するさまざまな批判が取り上げられたが、ラムザイヤー氏は日本の司法を一貫して擁護した。無実の人を有罪にしないように慎重になりすぎると犯罪者を取り逃がして犯罪を増やすおそれがあるとして、被疑者の人権を守りすぎたせいで犯罪が増えた米国と比べ日本は安全を維持できている、と評価したのだ。また日本の刑事裁判で有罪率が米国に比べて極端に高いことについて、検察がきちんと精査しているためだと主張した。
こうしたマイノリティや戦争被害者に対する攻撃や、司法による権利回復の否定、人権軽視の背景には、前述した白人男性中心主義・白人至上主義の問題がある。北米の日本研究業界に白人至上主義がみられるという問題については、3月14日に市民団体「Fight for Justice 日本軍『慰安婦』――忘却への抵抗・未来の責任」などが開催したオンライン集会で、カナダのトロント大学の米山リサ氏も指摘していた。米国におけるマイノリティや女性の権利獲得に不満を持つ白人男性研究者たちが、それをそのまま発表すると差別的だと批判を浴びてしまうので、日本に「本来あるべき(人種的・ジェンダー的)秩序」を見出し、それらを称賛するという構図だ。