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総務省接待問題、文春砲の背景に「ユダ」の影
西川伸一|2021年5月1日3:24PM
かつて私はある地方公務員の方と仕事をする機会があった。その方は昼食提供の誘いをきっぱり断り、仕事終了時に用意された手土産も辞退した。また、勤務先の大学でOB・OGの公務員を招いて、公務員志望の学生たちに話をしてもらうことがある。彼らは謝金も交通費も受け取らない。このような高い倫理観をもって、現場の公務員は職務に精勤している。なんたる懸隔か。
キャリア官僚の登竜門である国家公務員採用総合職試験の志願者数は、この20年で5割も減少している(1月14日付『日本経済新聞』)。昨年度の申込者数はその前の年度より3・3%減って1万6730人だった(2020年9月9日付『同』)。
元キャリア官僚の千正康裕氏が昨年『ブラック霞が関』(新潮新書)を著した。それによれば、若手官僚は明け方の3時、4時に書類を届けるために霞が関・永田町を自転車で走り回っている。ブラックな働き方に加えて今回の不祥事は、若者の公務員離れをさらに進ませないかと懸念する。
本件の転換点は「文春オンライン」が2月17日に、総務省幹部と首相の長男らによる昨年12月10日の会食時の音声を公開したことだった。衛星放送事業をめぐるやりとりが録音されていた。シラを切れなくなった総務省は2月19日の衆議院予算委員会で説明を一変させる。放送事業の話があったことを認めたのだ。すなわち利害関係者からの接待だった。
「文春オンライン」は「音声は、接待が行われた店に客として入店した複数の『週刊文春』記者が、付近の座席から録音したもの」と説明している。どうやって『週刊文春』は接待の日時・場所と出席者を事前に知り得たのだろう。
2月26日付『週刊読書人』のコラムで、田原総一朗氏は「菅首相にダメージを与えるための、体制内の反乱ではないか。総務省内かどうかわからないが」と推理し、「権力の世界を長く見ているが、こうしたことが起きるのはめずらしいことではない」と結んだ。
「敵は本能寺」は永遠の真理のようだ。2月26日夕の「ぶら下がり取材」で、首相は山田氏の仕切りなく約18分間さらし者にされた。それに手を叩いた「ユダ」がいたかもしれない。
(西川伸一・明治大学教授。2021年3月5日号)※大型連休にあわせて過去記事を掲載します。