二〇〇三年に放送された、大好きな藤沢周平原作の「蝉しぐれ」、脚本は黒土三男。僕は意図があって大冒険をした。バイオリニストの太田惠資さんは、ホーミーもこなす。喉の奥からお経のように搾り出す一定した持続低音に倍音を共鳴させ澄んだ笛のような音を出す。加えて、アラブ風な言語？で即興歌を唸る。

太田さんのパフォーマンスで、僕は無国籍な空間を出現させたかったのだが、唐突な試みだ。とにかく太田さんにやるだけやってもらうが、演出から即ＮＧが出るのは必至。だが演奏が終わるや否や、ガラスの向こうの副調整室にいる佐藤幹夫、田中健二両ディレクターは立ちあがり、身を乗り出さんばかりの大花丸ＯＫサイン！

僕は見くびっていたんだね、お二人を。まさかＯＫなんて出さないだろうと。失礼いたしました。富士真奈美さんがあるとき、「あら、いい音楽だわこのドラマと思ったら、小室等ってクレジットが出てきてびっくりしちゃった」と言ってくれた。本当にいいドラマだ。で、音楽もいいと自画自賛。

（小室等・シンガーソングライター、２０２１年３月２６日号）
※大型連休にあわせて過去記事を掲載します。