『出版と権力』が描く講談社の知られざる歴史と教訓
佐々木実|2021年5月3日5:29PM
魚住昭氏の新刊『出版と権力 講談社と野間家の一一〇年』(講談社)は、近代国家日本に誕生したマスメディアの歩みを追いながら、ジャーナリズムの条件を問う問題作である。
講談社の創業家一族を縦糸に、著名な出版人や作家が立ち替わり登場して物語を展開していく。大河ノンフィクションの本編は9章からなるが、6章までは講談社を起こした野間清治の時代である。
明治11(1878)年に群馬県で生まれた清治の父と母は、官軍に刃向って死んだ飯野藩の遺族同士だった。母方の祖父は司馬遼太郎の『竜馬がゆく』にも登場する剣客の森要蔵で、三男の息子とともに官軍と戦い壮絶な死を遂げている。
「お前はこんなエラい先祖の血を受けているのだから、是非、家を興さなければならぬぞ」
そう言われて育った清治は、誰からも愛される豪放磊落な性格を武器に、「日本の雑誌王」へと成り上がっていく。『出版と権力』はネットメディアでの連載をもとにまとめられたが、連載時のタイトルは『大衆は神である』。まさに大衆の心理をわしづかみにして『雑誌王』は誕生したのだった。