『出版と権力』が描く講談社の知られざる歴史と教訓
佐々木実|2021年5月3日5:29PM
国家とメディアの関係をテーマとしてきた魚住氏は忖度などしない。「第七章 紙の戦争」「第八章 戦時利得と戦争責任と」では陸軍との特異な関係が当事者の証言をもとに克明に描かれる。新たな歴史的事実については本書を読んでいただくしかない。
「ライター人生の出発点で講談社ジャーナリズムの最良の部分と仕事をする恩恵に浴した」。あとがきでこう記す魚住氏にとって、身を切る作品でもあっただろう。現在を描いた本書の結びで、『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(ケント・ギルバート著・講談社+α新書)にあえて触れていることからもわかる。
かくいう私も、講談社ジャーナリズムの最良の部分と仕事をする恩恵に浴したひとりとして、ヘイト本の出版には衝撃を受けた。なぜこの“ベストセラー本”が許されざる出版だったか。魚住氏が655頁を費やし説諭しているようにも読めたのである。
(佐々木実・ジャーナリスト。2021年3月19日号)
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