「こども庁」設置構想、菅政権の本音は?
衆院選目当て、看板倒れか
吉田啓志|2021年5月11日3:50PM
【過去にも出ては消えた構想】
ただ、政府は昨年末、国民からの提案に答える「規制改革ホットライン」で「こども庁設立」を提言した個人に「現行制度下で対応可能」と回答したばかり。麻生太郎政権時代の「厚労省分割」など、窮地に立たされた政権ではこれまでもたびたび「省庁再編」が取り沙汰されてきた。菅首相も新型コロナウイルスへの対応で求心力を失いつつある。こども庁に対する首相の熱意について、元関係閣僚は「携帯電話料の引き下げ、デジタル庁と、肝いり政策への国民の評価は今一つ。『縦割り打破』は首相の代名詞だし、選挙を前に看板政策が必要なんだろう」と話す。
こども庁の議論は歴代の自民党政権でも浮上しては消えた。旧民主党は「子ども家庭省」の設置法案まで作りながら頓挫した。関係業界や省庁の強い抵抗、それぞれの思惑に振り回されたことが原因だ。今回も早速、厚労族と文教族議員による主導権争いが始まっている。政官界には文科省案、内閣府案など自分たちに都合のいい複数のこども庁案が飛び交う。
しかし、現状はこども庁が担う子どもの年齢層さえ定かでない。未就学児に絞るなら、虐待や貧困問題への対応が世代で分断され一元的に担えなくなる。同庁に幼稚園と保育園双方を所管させる案には両団体の反発が強い。一方、就学児の学校教育も含めた一元化となると、大規模な省庁再編を伴う「こども省」への昇格が不可欠だ。自民党内には「まずは箱(庁)を作ればいい」との声もあるが、竜頭蛇尾に終わる予感も漂う。
国立社会保障・人口問題研究所によると、子育てなど家族関連政策費の国内総生産(GDP)比(17年度)は、日本の場合1・58%。スウェーデン(3・42%)、英国(3・19%)などの半分以下にとどまる。「最優先すべきは何十年と指摘され続けている諸外国との格差縮小でしょう。箱の議論はもういいですよ」。厚労省の中堅職員はうんざり顔でつぶやいた。
(吉田啓志・『毎日新聞』記者、2021年4月23日号)