コロナ危機を「チャンス」にして改憲に利用する自民党
清末愛砂|2021年6月2日7:30PM
現在、参議院の憲法審査会で審議中の国民投票法改正案。欠陥が指摘されながら今国会会期中の成立が確実視されており、自民党は改憲への意気込みを隠さない。5月3日、同党の下村博文政調会長は、憲法への緊急事態条項創設を訴える中で感染症拡大を緊急事態の対象にするとして「今回のコロナを、ピンチをチャンスとして捉えるべき」と発言。政府与党の失策を憲法のせいにして、厄災すら改憲の名目にする姿勢が明らかになった。
感染症拡大は憲法が要請する政策を行なわなかった政府の責任
2017年5月3日、安倍晋三前首相は自衛隊への感謝をことさら強調し、違憲論の〈解消〉を図るためと称して、自衛隊の憲法明記の必要性を訴えた(読売新聞インタビュー記事や改憲派の集会向けのビデオメッセージ)。
翌18年3月、自民党憲法改正推進本部は、自衛隊の憲法明記や緊急事態条項の導入を含む改憲4項目条文イメージ(たたき台素案)をまとめた。その主眼は、安倍氏が求めたように自衛隊の憲法明記にあり、同党を含む改憲派のアピール戦略においても、国民からの賛同を得やすい自衛隊感謝論が前面に打ち出されてきた。
ところが、それから約2年が経過した20年春以降、改憲派のアピール戦略に変化が見られるようになった。世界保健機関(WHO)から「パンデミック」と位置づけられた新型コロナウイルスの感染拡大問題を受け、〈国民〉の命を守るためには、憲法に緊急事態条項(公権力による国家緊急権の行使を可能とする条文)を導入することが喫緊の課題だといわんばかりの主張がなされるようになったからである(日本政策研究センター『明日への選択』20年4月号、5月号、8月号での論考やインタビュー等)。
こうした戦略の変更は必ずしも、自衛隊の憲法明記が改憲の主眼でなくなったことを意味するわけではない。何としても改憲を成功させるために、社会情勢に合わせて国民の賛同を得やすいものへと正当化の〈理由〉を変えたにすぎない。
言い換えると、多数の人々に多面的な苦しみや痛み、ストレス等を与えているコロナ禍を利用して、改憲議論を盛り上げようとしているのである。その意図は、21年5月3日の改憲派の集会で「今回のコロナを、ピンチをチャンスとして捉えるべき」と訴えた下村博文氏(自民党政調会長、衆議院議員)の発言に如実に表れている。
「火事場泥棒」との批判が各所から出されたが、もっといえば、全国民の代表である国会議員であるにもかかわらず、改憲という長年の政治的野望の実現のためであれば、人が被っている不幸の利用すら厭わないことを露骨に示す信じがたい発言であった。