コロナ危機を「チャンス」にして改憲に利用する自民党
清末愛砂|2021年6月2日7:30PM
憲法25条を実現する政治なら病院逼迫はなかった
日本における新型コロナウイルスの感染拡大問題は、現時点においても一向に収まる兆しを見せない。多数の感染者がいる地域では、救急車が患者の搬送先の病院を見つけることができない等、病院の逼迫状況が深刻なレベルに達している。改憲派からすれば、こうした状況が生じた大きな原因の一つは、現行憲法に緊急事態条項が導入されていないから、ということになるが、それは断じて違う。
その主たる要因は、政府が「公衆衛生の向上及び増進」(憲法25条2項)を怠ってきたからである。
例えば、
(1)医療面では感染症の予防・拡大防止に必須な幅広い検査体制の整備を求める市民の声を無視し続け、また医療機関・医療従事者に対する十分な支援を行わずにきたこと、
(2)生活面では、事業の規模や職種、雇用形態等にかかわらず、人々が生活の見通しに不安を覚えずに休業できる補償体制を整備せずにきたこと
等を挙げることができよう。
憲法の要請に従わない政府の失策を顧みるどころか、都道府県知事からの休業・時短命令に従わない事業者に行政罰(過料)を科すような新型インフルエンザ等特別措置法の改定まで行なわれた。これは、生活手段の確保につながる憲法上の営業の自由(憲法22条1項、29条)および財産権の自由(29条)を一方的に侵害しうるものである。
〈人々の命を守る〉ために、公衆衛生上の措置から憲法上の私権を制限するのであれば、それは人々が安心して生活できる施策、とりわけ社会福祉・社会保障の観点から実施する施策(憲法25条2項)と抱き合わせのものでなければならない。