コロナ危機を「チャンス」にして改憲に利用する自民党
清末愛砂|2021年6月2日7:30PM
厄災対応に改憲は不要
改憲派は、現行憲法に緊急事態条項がないために、大規模な自然災害や感染症への対応ができないというが、それは間違っている。これらへの実務上の対応は、すでに整備されている個別法(災害対策基本法、災害救助法、感染症法等)やその改正法に基づいて行なわれるべきものである。
自民党の条文イメージ(たたき台素案)の73条の2案は、「大地震その他の異常かつ大規模な災害」時に内閣が「国民の生命、身体及び財産を保護するため」の「政令を制定することができる」としているが、これまでの自然災害等の経験の積み重ねゆえの個別法が存在している点に鑑みても、不必要な条文である。
それどころか、状況に応じて多角的な支援が必要となる人々のニーズにあわない政令が現場等から離れたところで一方的に発せられる危険性がある。また、強圧的な内容を持つ政令が発せられると、各現場から支援やその拡充を求める切実な声が出しにくくなったり、実質的にその機会が奪われたりしかねない。
さらには、「武力攻撃災害」(国民保護法2条4項)として、自衛隊の防衛出動(自衛隊法76条1項)に結び付く可能性もある。
21年5月11日、衆議院本会議で改憲手続法(国民投票法)の改定案(最低投票率・法定得票の規定すら導入されてない改定を「改正」とは表現できない)が可決された。同19日からは参議院憲法審査会で審議が始まった。
改憲のための国民投票について定める法律の改定である以上、その動きには改憲実現の意図が含有されている。事実、自民党は先の下村博文氏の発言のみならず、安倍晋三氏を同党の憲法改正推進本部の最高顧問に据える等、やる気満々だ。
政権与党等がいま考えるべきことは、莫大な費用がかかる改憲ではない。コロナ禍対応の失策を反省し、真摯に仕切り直しをすることこそが喫緊の課題である。
(清末愛砂・室蘭工業大学大学院准教授[憲法、家族法]。近著に『ペンとミシンとヴァイオリン-アフガン難民の抵抗と民主化への道』[寿郎社]など。2021年5月28日号)
※次ページに「緊急事態対応」についての「条文イメージ(たたき台素案)」などを掲載しています。