【タグ】公の秩序|公益|国民投票法|国防軍|天皇|家族|憲法|改憲|自民党
自民党憲法改正草案が目指す国の姿
田中優子|2021年6月3日10:26AM
国民投票法改正案の今国会成立が見込まれているが、その先にあるのは「自民党憲法改正草案」の世界だ。この問題点について本誌編集委員の田中優子氏が解説する。
天皇と国と家族
そのために自らを捧げる人たちの国にしたい自民党の憲法
国民投票法の改正が衆院を通過した。今国会で成立するだろう。しかしこれは条件整備で、憲法改正を行なうには、第96条にあるように、改正事項を「各議院の総議員の三分の二以上の賛成」で「国会が発議」し「国民に提案」しなければならない。そこで、何を提案することになり、どのような経過でどう憲法が変わっていくのか、つまり日本がどう変わっていくのか、私たち一人ひとりが具体的にその想定を行ないつつ、関わりかたをそろそろ決めた方が良いようだ。
改正の既成事実を作る小手先のテクニック?
自民党は9条改正への反発が強いことから、2012年4月27日に決定された「自民党憲法改正草案」の中から優先的な4項目の「条文イメージ」なるものを18年3月26日付で発表した。優先的な検討事項とは、自衛隊、緊急事態、合区解消・地方公共団体、教育充実である。いずれも「自民党憲法改正草案」とは異なる内容だ。
たとえば教育充実では、教育を受ける権利と、受けさせる義務を述べている第26条の後に(3)として、「各個人の経済的理由にかかわらず教育を受ける機会を確保することを含め、教育環境の整備に努めなければならない」を追加した。
これは国による教育の無償化あるいは経済的支援を意味するわけで、誰も反対しないだろう。しかしすでに、教育の無償化は憲法改正せずとも始まっている。
そして第9条である。現行の全体をそのままにした上で、その後に、「前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」とした。
これは「自民党憲法改正草案」にあった「第九条の二」の「国防軍」をすべて削除した内容である。おそらくこの四つの条文イメージを提案して憲法改正のハードルを低くする。
そして次に、現行第96条の憲法改正の手続きを、自民党憲法改正草案第百条にある、「衆議院又は参議院の議員の発議により、両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が議決し」という手続きに変える。
「発議」の主語を国会ではなく「議員」とし、議員によって発議された提案を総議員の過半数の賛成で国会の議決とし、それを国民に提案し承認を得る、という順序になっている。三分の二から過半数にしてハードルを下げた。その上で、次に行なうのは、12年4月27日に決定された「自民党憲法改正草案」に沿った提案の数々になるのではないだろうか。