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自民党憲法改正草案が目指す国の姿
田中優子|2021年6月3日10:26AM
「公共の福祉」が「公益及び公の秩序」に
そんなことを考えるのは、四つの条文イメージと「自民党憲法改正草案」との関係が、どうにも腑に落ちないからだ。なぜなら、自民党憲法改正草案には明確な国家観、価値観が見え、条文イメージにはそれがない。
そこで私は、憲法改正問題を考えるには自民党の本質的なイデオロギーを把握しておく必要があるのではないか、と考えている。四つの条文イメージは、改正の既成事実を作るための小手先のテクニックに思える。それは考え過ぎで、9条改正への反対表明が自民党を変えたのなら、それは結構なことだが、本当に「自民党憲法改正草案」(文末参照)を反故にするつもりなのか。
「自民党憲法改正草案」に描かれた日本は、どういう日本か。例えば、現行憲法は前文が三つの段落でできている。主権が国民にあること、日本国民は恒久的な平和を念願していること、政治道徳の法則は普遍的であること、である。
自民党の憲法改正草案はやはり三つの内容からできている。天皇を戴く国家であること、国民は国と郷土を自ら守らねばならないこと、憲法制定の目的は国家を子孫に継承するためであること、だ。そして現行憲法の第1条は天皇を日本国の象徴としているが、「自民党憲法改正草案は天皇を元首としている。
さらに、自民党の草案では、憲法13条から「個人」という言葉を削除し「人」に入れ替えている。「公共の福祉」という言葉を「公益及び公の秩序」とした。
憲法はそもそも、国民が制定して天皇、大臣、公務員に守らせるものである。その国民とは、人権を絶対的に保証された個人ひとりひとりなので、個人は「公共の福祉」つまり他の人たちの幸福を侵さないよう注意しながら、あるいは他の人たちの幸福を守るために、国家と正面から向き合って、天皇、大臣、公務員に憲法を守らせる必要がある。
この、「個人」と「他の人たちの個々の幸福」という関係を、「人」一般と「公益及び公の秩序」に置き換える発想が、自民党の価値観の柱だ。
自民党のHPの中にある「日本国憲法改正草案Q&A」には、興味深いことが書かれている。要約すると、「公共の福祉」は、人権相互の衝突の場合に限ってその権利行使を制約するものだが、街の美観や性道徳の維持などは人権相互の衝突のみで説明するのは困難である。憲法によって保障される基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではない、と。