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自民党憲法改正草案が目指す国の姿
田中優子|2021年6月3日10:26AM
自民党の国家観は、非現実的なほど美しい幻想に浸りきり、宗教のよう
これと通底するのが第24条の冒頭に加えた部分である。「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」と。自民党憲法改正草案の国家観は、天皇を国民の上に戴いて、正しい性道徳によってしっかり結び合わさった家族が、「自ら」国土を守り、街を美しく保ち、子孫を残し、国家を子孫に継承する、というユートピアである。
自民党にとっての基本的人権とは、天皇を頂点とし家族を末端とする公の秩序の「ために」存在する人権であり、したがって街の美観や性道徳はもとより国土も郷土も基本的人権より尊重される。そこに立ってみると、「国防軍」という言葉の方が自衛隊より確かに美しい。
自民党の国家観は、決して残虐なものではない。むしろ非現実的なほど美しい幻想に浸りきった国家観なのである。そこでは、個人はさまざまな苦悩や矛盾があったとしても、天皇と国土と家族を全面肯定し、そこに自らを捧げることで幸せになる。
既成のものへの疑問や思考や議論が入る余地はなく、知性とは無縁で、ほとんど宗教のような国家観だ。
そこからもう一度現行憲法を見渡すと、二つの意味で国家を超えた視野を持っている。
一つは「個人」が価値観の中心にしっかりと据えられている。二つ目に、その個人は世界の中に位置づけられている。世界における個人は、国においてはその主権を持ち、国を成り立たせているのは個人としての国民である。全くその価値観は異なっている。
私たちは今、現行憲法による日本に生きている。したがって主権は私たち個々人にある。その主権を行使して憲法が表現する国家の姿を選ぶのが、憲法改正の国民投票なのだ。
(田中優子・江戸文化研究者、法政大学名誉教授、本誌編集委員。2021年5月28日号)
※次ページに自民党憲法改正草案 (2012年4月27日決定)を掲載しています。