沖縄県警が米軍抗議の蝶類研究者を家宅捜索
澤井正子|2021年6月22日4:21PM
【背景に世界遺産登録問題】
日米地位協定により、米軍は返還地の原状回復義務を負わない。返還地の廃棄物や有害物質の調査・処理は国(防衛省)が担うことになっている。だが沖縄防衛局はわずか8カ月の除去作業を行なっただけで17年12月に「支障除去の完了」を公表した。米本国では通常10年以上が必要とされるほど、軍事基地・訓練地の汚染除去・原状回復は難しいとされている。多種雑多膨大な量の「米軍廃棄物」を残存させながら「完了」としたのは世界自然遺産登録のためだ。
この地域は一度世界自然遺産登録に失敗している。日本の自然遺産は屋久島(1993年)、白神山地(同)、知床(2005年)、小笠原諸島(11年)の4カ所。5番目の推薦地が「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」。しかしこの地域は18年5月にIUCN(国際自然保護連合)から「登録延期」という厳しい勧告を受け、政府は推薦を取り下げている。
実質“落第”の勧告内容は「遺産」選定地域の不適切だ。約700キロメートルに広がる4島で推薦地は24地域に細分化され、沖縄と奄美だけで20カ所。これら分断された「小さな飛び地(多くの地点が100ヘクタール以下)」では生物多様性は認めるが、独立した生態系として保全が難しいこと。そして逆に日本が推薦地に入れていない米軍北部訓練場返還地を含めるべき、という指摘だった。
訓練場の返還は政府の旧「推薦書」提出期限の1カ月前の16年12月。やんばるの森は天然記念物・絶滅危惧種のヤンバルクイナなどの多くの固有種の生息地でありながら、それぞれ小さな一部分だけが推薦地となっていた。IUCNから世界遺産として保護・保全できる「十分な広さの生態系」の確保を求められた政府は、新たに訓練場返還地(約4000ヘクタール)を推薦地に含め、生物多様性に的を絞った推薦に方針を転換した。米軍北部訓練場返還地は、日本最後の世界自然遺産候補にとっての必須条件となったのだ。