台東区「山谷」で野宿者らへのワクチン接種相談会
西中誠一郎|2021年7月2日5:27PM
【炊き出しと合わせて実施】
6月13日の炊き出しには70人近くが参加し、距離を保ちながら野菜と鶏肉が豊富な温かい汁飯の列に並んでいた。前記「活動委員会」の向井宏一郎さん(49歳)によれば、6日の炊き出しの際にワクチン接種のメドが立っているかについて参加者95人に尋ねたところ、5人だけだったとのこと。
「みんな注射できるかどうか半信半疑。それで水曜日(9日)の飯の後に相談会をやりました。申請書を書いてもらい、接種券の送付先を私たちの事務所にする形で3人が台東保健所に提出したら、先ほど郵送されてきた。これが初めてのケースです」(向井さん)
3人は炊き出し後に台東保健所のコールセンターに電話。すぐにワクチン接種の予約を入れることができた(筆者もその場面を目撃した)。
野宿者にはウイルスに感染しても自宅待機する家はない。野宿者以外にも、住民票を移していないという人たちは多い。ドヤでも集団感染はあり、亡くなった高齢者もいる。
「炊き出し後に相談会をやるとのチラシを会館前に大きく貼っておきました。地方自治体は路上生活者に情報が届くよう、きちんと広報すべきです」(向井さん)
1週間後、20日の炊き出しの際にも、16日に保健所へ新たに申請した4人分のワクチン接種券が事務所に到着。コールセンターに電話のうえ、2回分のワクチン接種の予約を入れることができた。向井さんや「活動委員会」は今後、山谷周辺を夜回りしている団体とも連携して、周辺の野宿者や住民票のない人々にもチラシを配布していく予定だ。
感染症対策を最も必要とする人々がワクチン接種から排除されないように、行政は当事者の生活事情に正面から向き合い、これまで制度から排除され続けてきた人々が持つ不信感の払拭に取り組むべき。それが出発点だ。
(西中誠一郎・ジャーナリスト、2021年6月25日号)