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最高裁再び夫婦同姓規定「合憲」と判断
4人の裁判官は「違憲」

宮本有紀|2021年7月3日10:00AM

民法750条は、婚姻時に「夫又は妻の氏を称する」とし、戸籍法74条は「夫婦が称する氏」を婚姻届に記載することを規定する。日本人同士は夫婦同姓でなければ法律婚ができない。別姓での婚姻届受理を求める事実婚夫妻3組が、別姓を選択できない民法や戸籍法の規定は憲法違反だと訴えた家事審判の特別抗告審で、最高裁大法廷(裁判長・大谷直人長官)は6月23日、11人の多数意見で規定を合憲とする決定を出した。4人は違憲と判断(詳細は表を参照)。合憲判断は2015年の別姓訴訟判決に続き2度目だ。

決定文書49ページのうち多数意見部分は正味1ページ強。15年判決後の世論の変化等を踏まえても判例変更すべきものと認められないとし、「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄」と再び国会に議論を預けた。申し立て人の一人、水沢博司氏(仮名)は「国会にもう一度ボールが投げられたのは非常にショック。不利益がいつまで続くのか」と失望を表明。同じく申し立て人の一人である大山礼子氏も「日本はガラパゴスから脱するチャンスを、また逃した。次期国会議員には、国民の意見を反映する真の代表として活動していただきたい」と述べた。

今回の訴訟は15年判決時の訴訟とは主張が異なり、同姓を選ぶと結婚でき別姓を選ぶと結婚できないのはカップル間差別で14条違反だということも訴えていたが、これについては「実質は単なる法令違反を主張するもの(略)であって、特別抗告の事由に該当しない」とだけあり、理由は書いていない。弁護団は「判断を放棄した」と批判する。

注目すべきは、文書のほとんどを占める反対意見だ。三浦守氏は改姓するのはほぼ女性という現状から、「両性の実質的な平等という点で著しい不均衡」があるとし、「夫又は妻の氏」が形式的な平等にすぎないことを指摘。「夫婦同氏制の『定着』は(略)少なくない個人の痛みの上に成り立ってきたということもできす」と記す。

宮崎裕子・宇賀克也両氏は、同姓を望まない者に対して生来の氏名を失わせる夫婦同氏制は、「当事者の自由かつ平等な意思決定」を妨げる不当な国家介入と断言。また、15年判決の「氏は、家族の呼称としての意義がある」について、〈その側面は否定しないが、それが夫婦同氏制の合理的根拠とは言いがたい〉と反論し、「夫婦別氏となっている家族の絆が弱くなっているという実質的根拠も何ら存在しない」と指摘する。さらに、三浦・宮崎・宇賀の3氏は、女性差別撤廃委員会から選択的夫婦別姓制の導入について正式勧告を受けていることにも言及。法改正の遅滞を厳しく指摘している。

草野耕一氏は、選択的夫婦別姓制を導入した場合としない場合の「国民の福利」を比較し、導入したほうがはるかに福利が大きいと判断。「導入しないことは個人の尊厳をないがしろにする所為」と明確に述べている。榊原富士子弁護団長は「4人の裁判官がいかに熱意と心を込めて書いたかが伝わってくる」と高く評価した。

また、翌24日にも同様案件の特別抗告審の決定が最高裁第一小法廷であり、裁判官全員が合憲と判断。申立人の恩地いづみ氏は「不当決定というより問題にならない時代錯誤」と批判しつつ、「最終目標は勝訴ではなく法改正。そこを目指し諦めずに進んでいく」と前向きな姿勢を見せた。

判決後、最高裁前で会見する申し立て人と弁護士ら。「多数意見はこれだけで、ここからはすべて補足意見と反対意見です」と弁護士(右)が説明した。(撮影/宮本有紀)

現在、最高裁裁判官15人のうち、女性は2人しかいない。指導的地位に占める女性の割合が30%程度となるよう取り組む政府としては、第5次男女共同参画基本計画に「最高裁判事も含む裁判官全体に占める女性の割合を高めるよう裁判所等の関係方面に要請する」と盛り込むも、最高裁裁判官の女性比率は2割にも満たない。

この構成について榊原弁護団長は会見で「女性だから男性だからというのはいけないと言う人もいますが、現実に最高裁の半分が女性だったら、このような結論には絶対にならないと思います」と発言。以前は、旧姓使用をしている裁判官でも戸籍名でしか判決を書けず、判決文への旧姓使用が認められたのは2017年からと最近のこと。榊原氏は「裁判官としてそれ(結婚改姓による不便・不利益)を体験した方が、その大変さやトラブルを知って思いを抱えて判決を書くのと、全くそんな苦労はしない人が書くのとでは違うということ。やはり足を踏んでいる側と踏まれている側では違うと思います」と指摘した。

最高裁判事の女性割合を最低3分の1にすることを求めている「女性差別撤廃条約実現アクション」の浅倉むつ子共同代表は判決について「今回は女性裁判官の意見が分かれてしまったし、残念な結果」として、「もちろん女性なら弱者の立場を理解できるはずという単純な決めつけはしていない。だが、多様な考えの人々がいるなかで、性暴力被害の経験は圧倒的に女性が多いなど、男女の経験差があるからこそ法の世界でも男女が混在している必要がある。今後も司法のジェンダー平等を求めていく」と話した。

(宮本有紀・編集部、21年7月2日号)

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