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「計画ありき」で進む宮城県の水道「民営化」 
水は誰のもの?

内田聖子|2021年7月21日5:02PM

6月15日、開会日の宮城県議会前で「命の水を守れ!」「水道民営化反対!」と市民がアピール。(提供/命の水を守る市民ネットワーク・みやぎ)

宮城県議会で7月5日、水道事業の運営権を民間企業に売却する「みやぎ型管理運営方式」関連議案が可決された。県が担う上下水道、工業用水の3事業が対象だ。日本国内の自治体では初めて公共水道が「民営化」されることになった。導入の端緒は2018年の水道法改正まで遡る。

日本の水道は、水質や漏水率など多くの面で世界トップクラスだ。背景には「生存権」を保障する憲法第25条があり、明治以降、全国の自治体が「公営水道」を維持してきたからこその成果と言える。

しかし、日本の水道事業は大きな曲がり角にきている。人口減少による料金収入の低下、水道管や浄水場などインフラの老朽化、そして管理に携わる自治体職員の減少だ。水道法改正はこれらを克服するための提起だが、このとき官邸主導で強く推進されたのが、「民間企業への運営権売却」(コンセッション方式)――「公共サービスの市場化」路線だ。

コンセッション方式は1990年代に導入されたPFI(民間資金活用による社会資本整備)の手法の一つ。施設の所有権は自治体が持ったまま、運営権を民間企業に売却するもので、資金調達から財務、人事、サービス内容・料金、外注先など経営全般の決定権が民間企業に移るという意味で、実態は「民営化」だと考えてよい。

水道法改正時には、内閣府の民間資金等活用事業推進室にフランス資本の水道メジャーであるヴェオリアの日本支社社員が「出向」していたことが利益相反にあたるとの指摘や、安易な「民営化」により料金高騰やサービスの質の低下が懸念され、市民団体や労働組合も反対運動を展開。新潟県、福井県、長野県などの自治体からも「反対」「慎重な審議を」との意見書が国に次々と提出されていた。

そんな中、水道法改正に「賛成」を明言した唯一の自治体が宮城県。村井嘉浩知事は国会に参考人として出席し、コンセッション方式を高く評価。全国でも突出して「民営化」に意欲を見せる宮城県は法改正後の19年12月、県議会で「コンセッション方式」導入の条例改正案を賛成多数で可決。その後約1年半の間に、事業者選定など実施に向けて準備。今議会で改めて関連条例案が審議された。

【海外で多い民営化の失敗】

苦境に立つ自治体にとってコンセッション方式は「万能薬」なのか。海外では「民営化」の失敗例も目立つ。企業に経営権が移ることで、情報開示や透明性が後退し、市場原理に基づく運営の結果、料金高騰や水質悪化も起こった。利益が出ても設備投資や職員・利用者への還元がなされず、株主配当や高額な役員報酬が優先されたことも。欧州では今や水道を含む「公共サービスの再公営化」が一つの潮流になっている。

同県内では19年から「命の水を守る市民ネットワーク・みやぎ」が立ち上がり、県側に説明会の実施や計画撤回を要請、県議会前スタンディングなど粘り強い運動を続けてきた。その中で、サービスの質の低下や自治体から水道事業のノウハウが失われるデメリットなどを指摘してきた。何よりも、すべての人の命に関わる水道事業の大変更が「計画ありき」で進められ、県民が置き去りにされてきたことに最大の問題がある。

可決された県の計画案では、県から運営権を買い取る合同企業に、水処理大手のメタウォーター(東京都)や仏ヴェオリア関連企業、オリックスなど10社が含まれている。県議会での審議中には与党・自民党会派の議員の中からさえ「外資系企業に参画させていいのか」など懸念の声があがり、建設企業委員会の表決では賛否同数となって委員長裁決でぎりぎり可決。本会議では2名の与党会派議員が退席(棄権)した。

市民ネットワークは今後も反対運動を続けるが、現状では国が推奨するコンセッション方式に全国どこの自治体が乗り出してもおかしくはない状況だ。自治体が抱える課題は、「公共サービスの市場化」で解決するのか。宮城県の先行例から学ぶ必要がある。

(内田聖子・NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表、2021年7月16日号)

 

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