ユネスコ世界遺産委決議受け明治産業遺産の展示変更を要請
強制労働や軍事目的の明確化を
2021年9月22日5:44PM
世界遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」について、日本政府がユネスコ(UNESCO、国連教育科学文化機関)世界遺産委員会の勧告を「誠実に履行していない」と批判され、同委員会が7月に「極めて遺憾」とする決議を挙げたことで波紋が広がっている。9月13日にはNGO「強制動員真相究明ネットワーク」(共同代表=庵逧由香・立命館大学教授ら)が記者会見し、同遺産を広報・解説している産業遺産情報センター(東京都新宿区)の展示を「強制労働」にふれた決議に沿った内容に改めるまで閉館するよう政府に求めた。
日本政府は2015年の世界遺産登録時に「その意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと、また、第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる」などと表明し、それは「国際的な約束」となっていた。
しかし、安倍晋三内閣の内閣官房参与を務めた加藤康子氏が所長の同情報センターの遺産の解説や展示は明治以降の近代化を賛美する一方で、炭鉱などでの朝鮮人らの強制労働や軍事目的での徴用や開発だったという歴史の本質部分の多くは消されており、ほとんどふれられていない――との批判は、20年6月の一般公開以降、続いていた。昨秋にセンターを見学した筆者も同じ印象をもち、案内の職員に伝えたが、質問は他の職員によって途中で遮られたりしていた。
ユネスコも21年6月には国際NGOの国際記念物遺跡会議(ICOMOS)とともに同センターへの視察を実施。7月にまとめた報告書は(1)強制的に連行され働かされた人々を理解するための解説上の措置は現状では不十分だ、(2)犠牲者を記憶する目的に適った展示はない、(3)同様の他国の産業遺産と比べて強制労働や軍事目的による利用が十分に認識される優れた実例に達していない、などと結論付けた。これを受けて7月のユネスコ委の決議では、23施設ある各遺産の「歴史全体を理解できるようにする解説戦略」や「関係者間の継続的な対話」などに配慮しながら、その実施状況を22年12月1日までに情報センターに報告するよう求めている。