難民認定めぐり東京高裁が違憲判決
「強制送還は裁判受ける権利侵害」
西中誠一郎|2021年10月4日5:55PM
難民不認定の処分を通知され、提訴の意思を示したにも関わらず、その翌日に強制送還されたとして、スリランカ人男性2人が日本政府を相手取り1000万円の賠償を求めた訴訟の控訴審判決が9月22日、東京高裁であった。平田豊裁判長は「憲法で保障する裁判を受ける権利を侵害した」と認め、計60万円の支払いを命じた。原告弁護団によると、一連の外国人の送還手続きを巡り、違憲判決が出るのは初めて。一審の東京地裁は2人の請求を棄却しており、画期的な原告逆転勝訴となった。
判決や弁護団の説明によると、原告は現在50代と60代。それぞれ1999年、2005年に短期滞在で来日し、期限切れで収容された。「政治的迫害」を理由に難民申請したが、不認定処分を受けた。その後、仮放免許可で出所したが、14年12月に許可更新で東京入管を訪れたところ、2人は突然、仮放免期間延長が不許可とされ、再収容された。その場で「難民申請の異議申立の棄却決定」を職員から告知され、「あなたは難民ではない」「帰国しても迫害の危険はない」と言われて、十数時間後の翌日朝には、羽田空港でチャーター機に搭乗させられた。
13年以降、法務省入管当局はベトナム、中国、バングラデシュ、フィリピン、タイなどを対象国にチャーター機による集団強制送還を繰り返している。今回のスリランカ男性2人のケースもこの集団送還の中にあり、14年12月にはベトナム人6人とスリランカ人26人計32人が同じ飛行機で送還された。
今年1月にも名古屋高裁で、送還されたスリランカ人難民申請者の国賠訴訟の控訴審判決があり、国の行政手続きの違法性は認定されたが、憲法判断には踏み込まなかった。集団強制送還者の中には、裁判による人権救済を望む難民申請者や、未払い賃金などがある元技能実習生、日本に家族がいる非正規滞在者などが数多く含まれ、強制送還の手続きのあり方や、裁判を受ける権利の保障などについて問題視されてきた。
難民不認定処分に対しては国に異議申し立てができ、審査中は送還されない。申し立てが退けられても訴訟で司法判断が問える。
【「弁護士先生呼んで下さい」】
今回の判決後の記者会見で弁護団は、国側から提出されたビデオ映像を紹介。
14年12月17日に入管職員が、スリランカ人男性に送還を通知する場面だ。入管職員に対し、「帰ったら殺される」「弁護士先生を呼んで下さい」「裁判をしたい」などと繰り返し必死に訴える男性の姿が写っていた。
20年の地裁判決によると、入管職員は、男性の携帯電話から計5回、約30分ほど弁護士に電話することを認めたが、つながることはなく、「弁護士さんもうダメです。チャンス与えたけど連絡取れなかったでしょ?」「明日、あなたを強制送還します。これは決定事項です」と言い放ったという。
東京高裁判決は「入管職員が、控訴人らが集団送還の対象となっていることを前提に、(40日以上前に出ていた)難民不認定処分に対する本件各異議申立棄却決定の告知を送還の直前まで遅らせ、事実上第三者と連絡することを認めずに強制送還したことは、控訴人らから難民該当性に対する司法審査を受ける機会を実質的に奪ったものと評価すべきであり、憲法32条で保障する裁判を受ける權利を侵害し、同31条の適正手続の保障及びこれと結びついた同13条に反するもので、国賠法1条1項の適用上違法になるというべきである」と、入管行政の違法を指摘した。
原告弁護団の一人、児玉晃一弁護士は「これだけ明確に憲法違反とした判決は希有。裁判で入管は、こういう強制送還をしないと支援団体が妨害するので正しい、と開き直ったが、それも否定した。画期的な判決です」と高く評価した。また名古屋高裁判決と異なり、「難民申請が濫用であるかどうかも含めて司法審査の対象とされるべきである」とした点も指摘。難民認定審査のあり方そのものに対して、司法審査の機会保障を広く認めた「国際人権法に則った判決だ」と述べた。
(西中誠一郎・ジャーナリスト、2021年10月1日号)