長崎市幹部による女性記者への「性暴力」裁判
報道による2次被害も
西村仁美|2021年10月15日6:12PM
長崎市の平和祈念式典について取材していた報道機関の女性記者が同市幹部(当時)による性暴力を受け、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症するなどしたとして、同市に謝罪と賠償を求めた裁判が、10月4日からの証人尋問の始まりで山場に入った。
訴状などによると、事件は女性記者が式典関連の事前取材をしていた2007年7月に起きた。加害者とされる当時の原爆被爆対策部長は11月、市長から事件についての聴取を受けた翌日に自死。女性記者は19年4月、長崎市に対し、市広報などへの謝罪文の掲載や約3500万円(のちに約7400万円に請求拡充)の損害賠償を求めて長崎地裁に提訴していた。
4日には被告・市の田上富久市長と当時の市幹部職員2人の証人尋問があり、18日には原告と当時の記者2人の尋問が行なわれる。これに先立ち、9月28日には、東京都内で原告代理人弁護士らと新聞労連が記者会見を開いた。
新聞労連の吉永磨美中央執行委員長は、記者が取材中に受けた性暴力被害は「氷山の一角」で、セクシュアルハラスメントも含めて取材先での被害が後を絶たない現状を指摘。「原告の支援を続けることが私たちの権利獲得に繋がる」と訴えた。中野麻美弁護士は「取材中の性被害であるか否かが大きな争点の一つ」であり、事件後に市側から流布された「虚偽話」と、それを基にした一部報道による2次被害の重さも法廷の場で明らかにしていきたいとした。
原告の女性記者のコメントも発表され、性暴力の深刻さに加え、「たくさんの中傷を受けました」「(恐怖にかられて)逃げた先の仮住まいにも脅迫状が送られ」などと訴えていた。
4日の証人尋問終了後の報告集会では、中野弁護士が「〝強かん神話”に依拠して長崎市が記者へ責任転嫁してきた過程が明らかになった」などと話した。
(西村仁美・ルポライター、2021年10月8日号)