沖縄県の精神科病院で大規模クラスター発生
精神医療の構造的問題点とは
岩本太郎|2021年10月27日6:45PM
【県の対応を批判する声も】
15日には「イルカ」と沖福連がオンライン記者会見を開催した。沖福連の高橋年男理事は、要望についての審議が行なわれた4日の県文教厚生委員会も傍聴したが、「質疑も形式的な内容に終わっていた」と感想を語る。密室に近い病棟に大勢の患者が入る精神科は感染のリスクが高く、うるま記念病院の場合は認知症の患者も多い。そうした詳細な実態を「質問した議員、答弁した県の担当者ともあまり把握せずに語っているように見えた」という。
沖福連の山田圭吾会長は、問題のうるま記念病院とは別だが、沖縄県内の他の病院に入院している患者の家族(うるま市内在住)からの声を紹介した。「息子さんが感染した」との連絡は受けたが、その後の報告は一切なく、病院まで直接訪ねていったものの玄関口で面会を拒否された。「『治療に関しては私たちに任せて下さい』と言われるのみ。家族でさえ息子が置かれた状況がわからない」と訴えた。
兵庫県精神医療人権センターの吉田明彦さんは「日本の精神医療の非常に歪んだ、構造的な問題点があぶり出された」ケースだと発言。うるま記念病院については今年1月にも感染者数が76人という大規模なクラスターが発生していたにもかかわらず、沖縄県がその事実を8月17日まで公表していなかった点を指摘した。同県では5~6月にも沖縄県立中部病院で感染者数51人のクラスターが発生し、この報告の遅れが地元メディアや県議会でも問題視されていた。うるま記念病院のケースについては、県側はこれまで会見など公式の場で積極的に事実の公表をしていなかった。
沖縄県の精神病患者の問題を取材してきたドキュメンタリー映画監督の原義和さんも「県はうるまのケースは『調査中』というが、現在に至るまで同院への立ち入り調査もしていない」と批判した。
高橋理事は「院内で何が起きているのかいまだにわからないことが一番の問題ではないか」と語る。イルカの長位鈴子代表は、精神科病院で人権が脅かされている患者や、内情を知る職員などから相談、情報提供を受け付ける「沖縄県障害者人権センター」を15日までに立ち上げたことを公表。この問題を訴えるチラシを作成・配布のうえ情報発信に努めるほか、同病院の元スタッフや患者の家族などに取材のうえ真相に迫る報道を行なってほしいとメディアに訴えた。
うるま記念病院・地域医療連携室の池原毅氏は取材に対し、「患者の家族からの批判には謝罪した」としたうえで、面会を断ったのは「安全に配慮しての判断」と説明した。今後の対応については「近々、情報をとりまとめてホームページで公表します」と語った。
(岩本太郎・編集部、2021年10月22日号)